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「本当にこんなところを借りる人がいるんですか?」空き家になってから20年、築100年の空き家をよみがえらせる不動産会社の“リアルなテクニック”

『老いる日本の家』より #2

genre : ライフ, 社会

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 筑前さんは「そんな部分が評価されるんですね」と頬を緩める。ベランダは祖父母との思い出がある場所だ。古くなって安全性に問題があるので使用はできないが、「残したい」と言ってもらえたのがことさらうれしかったという。「このやり方を提案してもらったとき、最初は『本当にこんなところを借りる人がいるんですか?』って何回も聞いてしまいました」

 家の在りし日の姿を知り、それが朽ちていく過程も目の当たりにしてきただけに「こんなボロ家を使いたい人なんていない」と思い込んでいた。第三者の目を通すことで改めて家が持つ価値に気付けたのだ。

©AFLO

もともとの要素を最大限に活かしたリフォームに歓喜

 それから2カ月後。リフォームが完了した家に上がって筑前さんは「見違えましたね。きれいになりました……!」と感嘆の声をあげた。真新しい畳特有のい草の香りがする室内に入ると、ボロボロだった襖や壁紙が張り替えられている。借り主になったのは外国人向けフォトスタジオを経営する会社だ。幻想的な桜や「富嶽三十六景」の赤富士など、訪日観光客の心をくすぐりそうな図柄が新しい襖に描かれ、部屋を華やかに彩る。他方で昔ながらのトタンの外壁や神棚、ガラスの引き戸など味わいのある建具はそのままだ。この家の雰囲気を気に入ってくれた借り主が、もともとの和の要素を最大限に活かすリフォームを施した。筑前さんが神棚の前で足を止めて軽く拝む。

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「本当にありがたいなと思います。これだけきれいに維持して使っていただけるんであれば、あの世に行ったときも母親や叔母たちに『ちゃんとやったよ』って胸を張って言えますね」

 そう口にする顔は晴れやかだった。本当にうれしかったのだろう、その日の夜には「涙が出そうでした」とメールまで届いた。

法律の改正で住宅以外の用途で活かせるように

 DIY型賃貸借をはじめ、空き家を利活用するための手法は広がりを見せている。ポイントは、筑前さんのケースのように個人住宅以外の用途への転用だ。よくあるのはコワーキングスペースや高齢者向けグループホームとしての活用で、ほかにはコールセンターやフードデリバリーサービス向けのゴーストレストランといった変わり種もある。所有者は「誰か住んでくれる人を探さなければ」と考えがちだが、空き家を住宅として捉えると使い道は限定される。対して、家はあくまで1つの“ハコ”だと発想を転換すれば、どんな中身を入れるか自由に考えることができるようになる。