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そびえ立つヤシの木、白とオレンジがまぶしい駅舎…JR内房線“ナゾの南国風の駅”「館山」には何がある?

ともすれば “東京から4時間コース”「暖かい南房総」

2024/01/22
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 源氏の血を引く里見氏は、室町時代に安房国に入って平定、1590年に城山に館山城を築き、江戸時代初期までこの地を本拠地としていた。関ケ原の戦い直後には、いっとき12万石を超える大大名として安房一国を治めている。そんな里見氏をテーマに描いた物語が、『南総里見八犬伝』だ。

『南総里見八犬伝』は、江戸時代後期に滝沢馬琴によって発表された、全98巻106冊という超大作。里見氏の娘が飼い犬と共に洞穴にこもるも自害して果て、そのときにお守りの数珠が空高く飛び散ってしまい、各地に8つの玉を持つ勇者が生まれて……という、実に現代的な、ドラクエ的な、ロード・オブ・ザ・リング的な物語。朝ドラ『らんまん』でも、浜辺美波演じるヒロインの寿恵子が愛読していた場面が描かれていた。

 もちろんこれはフィクション中のフィクションであって、実際の話ではない。が、読んでみるとなかなかにおもしろく、現代人でも充分に楽しめるストーリー。そしてその舞台が、館山というわけだ。そう考えると、館山の南国ムードももはやどうでも良いような気がしてくる。徹頭徹尾日本で、まったく良いではないかと思うのである。

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 里見氏は江戸時代はじめに改易されてしまい、その後の館山一帯は複数の小藩が入れ替わり立ち替わり。最終的には稲葉氏という1万石の譜代大名の小藩として明治維新を迎えている。里見氏の城下町だった時代からはだいぶ時が経っていて、すでに城下町としての面影は消え失せていた。

現在の内房線が開業したときは“2つに分かれていた”「館山」

 明治時代の館山は、房総半島を一周する旧街道の房総往還沿いに北条という市街地と、汐入川南側の館山という市街地に分かれていた。

 1919年、北条線という名で現在の内房線が開業したときは、館山駅は安房北条駅という名を与えられている。館山ではなく北条に設けられた駅だから、安房北条駅となり、路線の名前も北条線だったというわけだ。

 

 1933年には館山町と北条町が合併して館山北条町が発足。さらに1939年には那古町や船形町と合併し、館山市になっている。館山市は、千葉県では千葉・銚子・市川・船橋に次ぐ5番目の“市”であった。

 館山の町を歩いていると、駅の東側に南北に通る県道302号線が国道410号・128号と交わるあたりが市街地の中心であろうことがわかる。ちょうど北条町と館山町の重なり合うあたり。古い時代の名残が、中心市街地にも残っていると言うことなのだろう。