「『犯罪者』が『刑務所』に住んでいても特に何も言わず無言でいた人たちが、『ホモ・ミゼラビリス』が『シンパシータワートーキョー』に住むようになった途端に何かを言いたくて、その状況を言葉に変換したくて仕方なくなるというのは、やっぱり僕にはおもしろい。」(『東京都同情塔』)
受賞の報を受けて記者会見場へ向かった九段さんは、先に紹介したように壇上で堂々たる言葉の数々を発する。
趣味は「筋トレ」賞金をすべてジムの年会費に
その後は選考委員への挨拶などもあり、ホテル泊となった。うまく寝つけず翌日はひどい寝不足となってしまった。それはひとえに、ルーティンとなっている筋トレができなかったから。
筋トレは日課であり、大切な趣味なのだという。
「2021年に文學界新人賞を受賞したときに賞金をいただいたんですが、せっかくなので小説につながる使い方をしようと決めました。
そのときふと、私が大きな影響を受けてきた三島由紀夫は、30歳でボディビルを始めていることに思い至りました。私もちょうど30歳を超えたところだったので三島に倣おうと思い、賞金をすべてスポーツジムの年会費に注ぎ込みました。
それ以来筋トレを続けてきました。肉体改造をしてきたひとつの成果としては、先日芸術選奨新人賞をいただき授賞式に出た際、背中が広く開いたドレスを着られたことですね」
「5%ほど生成AIの文章を使った」という言葉の真意
当人が寝つけずいる夜分のうちにも、新芥川賞受賞者決定のニュースは世間を飛び交った。会見で話した「(全体の)5%ほどは生成AIの文章を使った」との言葉が、思いのほか注目され、あちこちで引用されていた印象だ。
「AIを使って書いたという言い方が一人歩きし過ぎると、それは事実と異なるので訂正したいところですね。『東京都同情塔』はAIを登場させる必然性があった小説で、その部分では実際にAIを用いた文章を使ったほうが効果が出るので、そうしたというまでです。作中にAIが登場するというアイディア自体はオリジナルのものですよね。そこからAIをうまく活用することによって、また新しい創造性が発揮されるものだと考えています。
小説内では、拓人という登場人物が生成AIを活用してビジネス文書をつくりますが、親密な関係にある主人公の沙羅を描写するときには、彼はやっぱり自分の言葉で語りたいと思う。そういうものを書きたかったので、人間のもつ言葉と、AIの文章を対比する意味もありました。
実際に小説を読んでいただければ、どこでAIを使っているかは簡単に見分けがつくと思いますので、その部分を見分けたりする過程も含めて楽しんでいただけたら」