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 ザハ・ハディドによる国立競技場や、東京に屹立することとなる東京都同情塔、さらには主人公の女性建築家の言動と、作中に出てくる事物や出来事、人物がどれも「いかにもありそう」と感じられるのは作品の特長だ。選考会でも高く評価された作品内のリアリティは、どのように生み出されているのだろう。

小説は「アンビルト」みたいなものーー「すごくゾクゾクします」

「小説を書く前にはいつも、資料を集められるだけ集めます。ひとつのテーマにつき100冊単位で読まないと、私は小説を書くことができません。自分の妄想だけでは具体的なかたちがまったく見えてこないのです。

『東京都同情塔』なら、まず建築の本を読み漁りました。建築家、丹下健三や隈研吾の書いた本を読んでいくうち、やはり建築家を主人公にしてみたいという気持ちが固まっていきました。

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 さらには『アンビルト』ということに関心が向き、それについても調べまくりました。アンビルトとは実現しなかった建築で、つまりは思想だけが残る建築ということ。実際の建築は建っていないけれど、その構想を知った人の頭の中にはその建築は確実に存在する。これはまるで小説みたいだなと思いました。

三島由紀夫の『金閣寺』は「建築小説として参考にした一冊」だという ©鈴木七絵/文藝春秋

 小説というメディアはすごく特殊です。小説の中で起きていることすべてを、現実のこととして読者は受け止めます。『彼が死んだ』と書けば彼は死んでいるし、どんな荒唐無稽な死に方だったとしても『こういう理由で死んだ』と書いてあれば、読者は絶対にそれを信じなければならなくなる。

 現実ではアンビルトだった建築を小説の中で建たせれば、それは本当に実現したと信じられるわけです。しかもその小説が世の中に発表され書店に並んだりすれば、これはもう確実に『在った』ことになる。そう考えるとすごくゾクゾクしますね」