「これをやり遂げたら? もちろん俳優として得るところは少なくないと思います。でも、まだ想像つかないですね。まずはやり遂げてみないと」
福士誠治さんが慎重にそう語るのは、現代ニューヨークを舞台に3世代のゲイたちが繰り広げる壮大なラブ・ストーリーを、前後篇あわせて6時間半(!)かけて綴る長編演劇『インヘリタンス-継承-』のことだ。2018年のロンドンでの初演以来、世界各国で上演され大絶賛を受けている話題作で、日本版は今回が初演。福士さんは、主人公エリックを演じる。大きな挑戦だ。
2015年。33歳のエリックは、劇作家のトビー(田中俊介)と同棲中。ゲイ仲間を招いて得意の料理をふるまい、好きな文学や音楽、映画について語り合うことを何よりの楽しみに暮らしている。そんな中、トビーの書いた自伝的小説が大ヒット。舞台化の主演に抜擢されたのが、若く美しい青年アダム(新原泰佑)だ。彼の出現によって2人の関係は徐々に変化していく。
一方、彼らと同じアパートに住む初老の不動産王ヘンリー(山路和弘)は、36年連れ添ったパートナーのウォルター(篠井英介)を病で失う。ところがウォルターが遺した手紙には、「私の家はエリックに託す」とあった。それはエイズで死期が近い男たちの“看取りの家”だった――。
登場人物のほぼ全員がゲイであり、それぞれが愛に悩みながら生きている。さらに彼らの心身を蝕み命を脅かすエイズとの闘いも大きなテーマとして描かれていく。そして、もうひとつの大切な主題が“継承”だ。福士さんは、ここにこそ注目してほしいと語る。
「現代に生きるゲイたちが、どんなことを考え、どんなふうに生きてきたかが、細部にいたるまでよく描かれている作品です。今でこそ表立って表現されるようになった、ずっと隠されてきた事柄なども含めて。僕は、そういったことを次の世代に伝えるのも、愛だと思っています」
つまり、これまでのゲイたちが直面してきた問題やコミュニティの歴史を未来に語り継ぐ。その意味からも、本作は“愛”の物語なのだという。
「僕が演じるエリックは、まさにその役目を負った人物です。彼は、ひとりひとりがどんなに悩んでも届かないものがある中で、その真ん中に立ち、人と人、世代と世代とをつなぐ存在。劇的ではないけれど、人に影響を与えられる人。一見、損な役回りかもしれないけど、同時に彼の存在意義でもあるような。そして、新しい恋愛へ。エリック自身の心の“継承”も描かれます。意味がないことなんてない。全部、つながっていくんですよね」
今回、コンペで日本版の演出の権利を勝ち取ったのは、気鋭の演出家・熊林弘高氏。福士さんが氏の舞台に立つのは、これが3度目となる。
「熊林さんの演出は唯一無二。とても僕の中からでは出てこないような表現方法を持っている方で、毎回、本当に驚かされています。きっと今回も……お楽しみに!」
ふくしせいじ/1983年生まれ、神奈川県出身。2002年『ロング・ラブレター~漂流教室』でドラマデビュー。06年にNHKの連続テレビ小説『純情きらり』でヒロインの相手役を演じて注目を浴び、以降話題作に次々出演。現在、映画、ドラマ、舞台で活躍中。16年には演出家としてもデビュー、7作品を手がけている。
INFORMATION
舞台『インヘリタンス-継承-』
(2月11日~24日 東京芸術劇場プレイハウスにて/その後、大阪、北九州で公演)
https://www.inheritance-stage.jp/