ビッグモーターによる保険金不正請求問題で金融庁から業務改善命令を受けたSOMPOホールディングスは1月26日、記者会見を開き、経営トップを務める櫻田謙悟グループCEOが責任をとって3月末で退任するなど、経営陣の刷新を発表した。
このビッグモーター問題にあたった金融庁長官の栗田照久氏、および監督局長の伊藤豊氏は、入省年次が2年違うものの、年齢は同じ。だが、その道のりは対照的だ。そして早くも2024年夏の定期人事異動での去就が注目されている。
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2023年9月19日午前9時、ビッグモーター多摩店の前にスーツ姿の男が4人立っていた――。
翌月から本社となったこの店舗に足を踏み入れたのは、金融庁の検査官たちだった。その約1時間後、損保ジャパン本社と持ち株会社の入る、西新宿の43階建て高層ビルにも検査官たちが立ち入った。保険金不正請求問題を受けて、金融庁が行った立ち入り検査である。
この模様は大々的に新聞、テレビで報じられたが、金融庁の検査では極めて異例のことだ。通常なら情報を出さない金融庁が、メディアに立ち入り検査のタイミングを密かに伝え、写真や映像を撮らせたのである。
この案を練ったのが、ビッグモーター問題に強い関心を寄せていた金融庁長官の栗田照久(昭和62年、旧大蔵省入省)と、保険会社を監督する監督局長・伊藤豊(平成元年、同)だ。早くも、2024年夏の定期人事異動でその去就が注目される2人である。
長官と局長を隔てる60歳定年のライン
大蔵・日銀接待事件を受けて「財金分離」が決まり、金融監督庁(現・金融庁)が発足したのは1998年6月。以来25年を経て、金融庁では中途採用を含めて多様なキャリアを持った人材を受け入れてきた。そのため財務省と接点を持たない世代が企画官、課長補佐の大半を占めるようになった。もちろん、仕事の進め方は財務省のような「単一民族型」の方がスムーズだ。
しかし、日進月歩の金融技術や銀行業務への対応力を高めるには、民間出身者の持つさまざまな経験を活かすことが有効な手段となる。かつて金融界を震え上がらせた検査部隊は、いまや民間出身者が主力となっているのだ。
そんな金融官僚たちを指揮するのは、2023年夏、長官に就任した栗田である。
対する監督局長の伊藤は、若い頃から財務省本省の事務次官候補と目されてきた。栗田と伊藤は入省年次が2年違うものの、年齢は同じである。伊藤は埼玉県立春日部高校を経て東大に進学。高校・大学では、硬式野球部に所属した。入省が遅れたのも、野球に打ち込んでいたことが影響している。
春日部高校のHPでは、〈3年の夏の大会で負けるまで野球に明け暮れた生活でした。〉と綴ったように、2年間の浪人生活を経て、大学でも1年留年した。同校HPでは大学時代の野球についてこう振り返っている。
〈大学では高校時代以上に野球に明け暮れ、東京六大学・神宮球場で野球をしました。4年時は、捕手・主将としてフル出場しましたが、打率は4年時で2割1分、通算で1割8分5厘と、なかなか厳しい戦いでした。〉
指導力に長け、笑顔を絶やさない伊藤を、大蔵省の人事当局は高く評価してきた。
栗田は2023年8月で60歳になった。既に長官に就いているため、定年まであと5年残っている。一方、伊藤は11月生まれ。長官になれなければ、2024年夏の定期人事異動で退任しなければならない。わずか在任1年で栗田が長官の座を伊藤に譲るシナリオはあるのだろうか。
栗田と伊藤の約35年の官僚人生は、局長級になるまでほとんど接点が見当たらない。2人の金融官僚はいかなる歩みを進めてきたのか、振り返ってみよう。