高い利益率を謳歌してきた事業者の、崩れゆくファンタジー
そしてこれは、いままでビッグテック業界、日本ではGAFAMとか言われていた厳しくも楽しく美しい桃源郷のような世界がひとつの時代を終えようとしている端境期なんじゃないのかとも感じます。それまでは、急成長プラットフォーム事業者やクリエイティブな仕事で高い利益率を謳歌してきた事業者は、みな社員に対して安定した仕事や、豪華なランチや行き届いた託児施設を提供するなどして「会社はおんどれらを大事に思っています」というメッセージを感じさせることで心理的安定性を持たせることが大事であって、そういう安心感を持って働いている社員のクリエイティビティが利益率の高い仕事の実現に貢献しているのだ、というある種の学術的根拠に基づいたファンタジーが嘘のように消え失せていく世界の中に私たちはいるんですよ。
「使える人」の重要性
他方で、先にも述べました通り我が国では円安で海外からの技能実習生はなかなか来なくなる、最低時給では当然新しい人も求人に応募してくれなくなるという中で、仕事はあるけどこなせる社員がいないので黒字倒産しそうだから事業継承的M&Aに追い込まれる会社さえも出ています。さらには、業界内である程度物事が分かっている中堅から若手社員に対しては、文字通り現俸の2倍以上の給料で引き抜くなんてことも日常茶飯事となり、外資系のリストラで放り投げられた日本人が回り回って大手通信会社子会社の技術職に収まる、なんて事例も増えてきました。
何より、生成AIも含めて人手不足になると、実際に二本の腕、二本の足、ふたつの手で仕事をする大工さんや期間工さんなどのブルーカラーの重要性が増してきましたし、実際に人手不足なので賃金も国内では高騰し始めています。昔はドブ職の扱いで可哀想だったドライバーさんや土木作業員さんなども、欠員を埋められないので高い給料を保証しないと駄目になっているのです。
うっかり青春を無駄にして受験戦争に身を投じるよりは、技術を身に付けるために高校からさっさと就職してしまったほうが、人生における「稼ぐ」という意味でのコストパフォーマンスが高いなんていう逆転現象が起き始めているのもまた現実なのです。
そうなれば、大学や、大学院のようなところに入ってもホワイトカラーとして稼げる役職が減るのだとなってしまうと、巷では危機感を持って議論されている「大学に進学することが、その人の人生で本当に経済的価値を持つのか」という本質的なテーマにまた戻っていってしまうことでしょう。