一周回ってメリットを感じる社内行事や飲み会
また、会社組織の側も、いままでは要らない人はどんどん吐き出す方向で組織運営をしてきました。やりたいやつは沢山いるから、どんどん安い給料で雇って選抜していいやつだけを残す、っていうのが許された時代もありました。
ところが、人手不足で事業を完結させられる人や、担保するスキルがないぞということになると、スキルを持った社員に辞められてしまうことが最大のリスクになってきます。賃上げの文脈も踏まえ昇給を保障することで社員を逃がさない日本型経営へと先祖返りしていくことも増えてきているのです。
ここ数年は、タイパを気にする若い社員が社内でのコミュニケーションを嫌って部門の飲み会や会社の行事を忌避するので取りやめる、という方向が出ていましたが、コロナを挟んでHR(人事技術)の間では適切な頻度で社内行事や飲み会のある会社のほうが定着率も生産性も改善することが分かってきています。
実は大部分の社員はもっと同僚や上司部下の人となりを知りたいし、仕事や組織の話も聞いてみたいものなのです。一周回って、飲み会でも何でもやって組織のみんながその社員のパーソナリティが分からなければ生産性の上げ方も組織での扱い方も分からないので、そういう人には組織の側も知識やスキルの伝授をしないという方向にいくことになるのでしょう。
日本人が投げ捨てようとしてきたことは思い返す必要があるかもしれません。そして、実はそれは時代は下っても「長く勤めてもらうための報酬体系は、日本人の文化に馴染む組織論だった」ということなのでしょう。
これらの考え方は、じわじわと中途採用にも話が広がっていって、ある特定の分野の能力を持つ人を市場評価よりも高値でヘッドハントするのは無駄、という話は事例が集まりつつあります。確実なのは、会社や組織は必ずしもオワコンではなく、フリーランスや小規模事業主として請負や業務委託で生きていくことのできるタイプの人材は限られているということです。その人が何をできる人で、どのような実績と評価を得ながらキャリアを重ねてきたのかという「中身」と、その中身への組織の中での適切な「価格」を俸給としてどう設定するかが、これからの働き方改革の中では強く問われていくことでしょう。
日本型経営の利点を思い返すべきとき
あくまでクリエイティブをやっている会社(一部テック系を含む)は、存続する限り、離職率が適度に低い、ちゃんと社員が定着している会社が、仕事に対するクオリティを維持でき、利益率を確保できている、という当たり前のことが数万社と取引する大手ビッグテックの取引履歴から分かってきています。
日本人からすると「そんなの当然じゃないか」と思うところも多々あるんですが、そういう日本型経営の利点や良かった部分をこそ、日本人が投げ捨てようとしてきたことは思い返す必要があるんじゃないかと思いますし、日本からGAFAMのようなビッグテックが生まれないと嘆く人たちはビッグテック各社がいまもの凄い悩みと共に組織改革をしようとしていることをもう少し理解してほしいなあと感じる次第です。