25歳にして「世界のMAO」に——。

 各国の名門オーケストラからオファーが殺到、いま“もっともチケットの取れないピアニスト”藤田真央さん。

 初著作『指先から旅をする』では、20か国・100都市を熱狂させた2年間を自ら綴っている。その一部を抜粋し、紹介する。(全4回の2回目/続きを読む)

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オプティミストでいこう

 モーツァルトはわたしにたいへん合っている。それは間違いないと感じています。

 たとえば瞬間ごとの即興性や、コロコロ音色が変化していくところ。モーツァルトの曲は音数が絞られ、ごくシンプルにつくられているので、一音たりとも無駄にできない。ひとつでも音を取り逃すと、輪郭がぼやけたまま次の主題に移ってしまい、少しのねじれが致命的になってしまう。このように、演奏に律儀さと繊細さを要するところは、わたしをはじめ日本人の性質に合っているのではないかと思います。

 フィジカルにも、わたしはそんなに大きな手をしておらず、身長も高くないので、出せる音の大きさや幅がどうしても限られる。限定的な響きや構造で展開されるモーツァルトの楽曲は、その点でも合っているのでしょう。

2019年のチャイコフスキー国際コンクールでは、モーツァルトの《ピアノ・ソナタ第10番 ハ長調 K.330》を演奏した ©Evgeny Evtyukhov

 さらにいえば人間的にも、近しいものを感じます。物事をすこし斜に構えながら捉えようとするところや、周りの目を気にせずどんどん新しいことを目指して作曲していたところ。いつもちょっとした悪戯や遊びを忘れずにいるところなど。楽曲を解釈していると、その気持ち、わかる! と膝を打ちたくなることが多いのです。