25歳にして「世界のMAO」に——。

 各国の名門オーケストラからオファーが殺到、いま“もっともチケットの取れないピアニスト”藤田真央さん。

 初著作『指先から旅をする』では、20か国・100都市を熱狂させた2年間を自ら綴っている。その一部を抜粋し、紹介する。(全4回の4回目)

ADVERTISEMENT

藤田真央さんの初著作『指先から旅をする』(文藝春秋)

この一夜はきっと走馬灯に

 7月24日には5年に1度の周年記念ビッグガラ公演がある。今年は30周年を祝し、その日ヴェルビエに滞在している全アーティストが一堂に会する、オールスターゲームのようなコンサートとなった。そう、まさに5年前、アカデミー生だった私は観客としてガラコンサートに居合わせたのだ。いつかはこの一員になれたらと淡い期待を抱くとともに、世界の檜舞台で活躍するスターたちが眩しくて、そんなことは夢のまた夢だとも感じた。もし当時の自分にタイムマシーンで会いに行って、5年後にはその願いが叶うよと伝えても、19歳の私はきっと信じないだろう。

 今年のプログラムは3部構成である。第1部は10人のピアニストがラフマニノフ《前奏曲 作品23》を1番から10番まで1曲ずつ奏していく。第2部は主に弦楽器のソリストたちが小編成用に編曲されたバッハ《ゴルトベルク変奏曲 BWV.988》を披露し、第3部は指揮者たちが入れ替わり立ち替わりタクトを担うオーケストラ公演だ。なんと夢のようなステージだろうか。この公演のためだけにヴェルビエに来る価値も大いにあるだろう。