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緊張感のあるゲネプロ

 GP(ゲネプロ)が始まる前にピアノの性格を確かめようと、皆が2台のピアノの周りに集まってきた。上手側のピアノを長らく占領していたブロンフマンがやっとさらい終わったと思えば、トリフォノフが下手側のピアノを鳴らし、すると今度はキーシンがやってきて上手側のピアノを大音量で奏で始め、トリフォノフは彼に遠慮して演奏を中止した。なるほど、巨匠ピアニストの中でも先輩・後輩があるのか。私やカントロフは巨匠たちの勢いに押され、モジモジしていたら最後までピアノに触れられずにGPが始まってしまった。

 GPでは照明さん、舞台さんとともにステージの進行を確認する。前のピアニストが弾いている間に、暗闇の中静かにステージに歩み入り、そっと椅子に座って自分の番が来るのを待つ。いざ、照明が切り替わったら弾き始める。こんな進行だ。

 私の出番は3番目なので、すぐにスタンバイの準備をする。ステージに行くと、グラマラスな音量とヴィルトゥオージティ満載でキーシンが演奏していた。キーシンのコンサートは何度も訪れたことがあるが、ステージ上で聴くとそのバイタリティ溢れる音に改めて驚愕するしかない。3分ほどで彼の演奏が終わり、スポットライトが私を照らした。慌てて〈3番〉を弾き始めるも、完全にキーシンのピアノに飲まれてしまっている。この曲の特性であるバロック的要素などどこへやら、ふわふわした不甲斐ない演奏に終わってしまった。

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 私の次はプレトニョフの番だが、神出鬼没な彼はもちろんGPなんぞに現れることはなく、スタッフが代わりにスタンドインした。それがプレトニョフのスタイルで、本番に現れてさえくれれば御の字。それほど彼は特別な存在なのだ。プレトニョフを除いた9人はそのまま舞台袖に残り、アンカーのユジャが演奏を終えると、再び舞台に上がってカーテンコールのリハーサルをこなす。誰もいない客席に向かって、皆がそれぞれお辞儀の練習をするのはなんとも可愛かった。ブロンフマンやキーシンといったベテラン勢が真面目に立ち位置を確認し、きちんとお辞儀をしているのを見ると、我々若者もきちんとせねばと身が引き締まる。そんな中、ユジャは一人独特な超高速お辞儀をしていた。肝っ玉が違う。