東区4人襲撃事件の「教訓」
この東区の4人襲撃事件を経て内山にはひとつの目標ができたという。
「市街地でヒグマに襲われて亡くなる人を絶対に出させない、ということです」
問題のヒグマの侵入ルートにこだわったのもそのためだった。
さらに内山は、この事件において、人が襲われる数時間前からこのクマの目撃情報があったにもかかわらず、そのことが周辺住民に共有されていなかった問題を指摘する。
「被害者の方は、パトカーがマイクで『クマがどうとか』呼びかけていることには気付いていたそうですが、よく聞こえないまま、ゴミ出しに出ています。『近所に出たと知っていたら出なかった』と仰っていました」
内山らが記事を通じて、出没情報の周知に関する問題点を指摘したこともあってか、札幌市では事件後の7月から、市街地にクマが出た場合は各区が保有する広報車を出没地域に集中投入して周知を徹底することを決め、現在では札幌市公式LINEにおいて、登録者に対してはクマの出没情報が即時届く仕組みを作り上げている。
「僕はこの取組みは全道、そして全国でも真似してほしいな、と強く思っているんです。市民一人ひとりが『いまやどんな場所にクマが出てもおかしくない』という意識を持つことが、事故を避ける第一歩ですから」
岩崎もまた事件後から、市民ボランティアによる草刈り活動を取材するようになる。事件当日の朝、内山が書いた記事の通り、クマの隠れ場所となる生い茂った草を刈ることが、市街地への侵入を防ぐのに有効だと考えたからだ。
「ボランティアの皆さんの情熱がすごいので、私も思わず一緒に草刈りをしたことがありました。翌日、すごい筋肉痛になりましたが……(苦笑)。でもみんなでちゃんとやらないといけないことだと思います」
岩崎は上司に「クマ問題をやりたい」と直訴し、正式に「クマ担」メンバーに加わる。
この東区の事件をきっかけに北海道新聞「クマ担」は、内山を中心にチームとしての陣容を整えていくことになる。
写真=松本輝一/文藝春秋