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ヒグマ1頭を駆除しても5万円

「現在、ヒグマを有害駆除した場合の奨励金は自治体によって異なりますが、だいたい1頭あたり5万円程度と、『春グマ駆除』の時代と比べるとかなり低く抑えられています。さらに毛皮の需要も大きく低下し、熊の肝もワシントン条約などの関係もあって海外との取引が規制されており、以前ほど高くは売れません」

 多くのハンターは本職の仕事が別にあり、有害駆除はその合間に行うボランティアに近い。有害駆除で自治体の要請を受けて出勤した場合、自治体によって異なるが1万円から3万円ぐらいの日当も出るには出る。だが、その間、本業の方は別の人に任せるか、休むしかない。

「巡回に使う車の燃料費や一発1000円を超えるライフル用の銃弾などの経費もかかります。何よりもヒグマの有害駆除は、一歩間違うと自分が命を落とすリスクがある。そうした労力や危険性に見合った報酬がハンターに支払われているかといえば、疑問です」

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 比較的安全にクマを獲れる春グマ駆除は、クマを獲る技術をベテランから若手へと継承する場でもあった。そのため春グマ駆除が廃止されて30年以上が経った今、クマを獲るのに充分な技術や知識を持ったハンターは高齢化しているのが実情だ。

「こうした現状を踏まえて北海道も2016年から、若手が熟練者と捕獲する場合に限り、残雪期の捕獲を特別に許可する制度(春期管理捕獲)を始めたものの、制度を利用した捕獲頭数は年5~20頭にとどまっています。『経験の浅い若手を連れてヒグマと対峙するのは、なかなか難しい』と話す熟練ハンターもいます」

 このままいけば、ヒグマを獲った経験のあるハンターがいない地域も出てくるだろう。だが、ヒグマの方はお構いなしにどこにでも出没する時代になりつつある。

 なぜこういうことになってしまったのか。

「一言でいえば、ヒグマと人間社会との軋轢という問題をすべて現場のハンターに丸投げしてきた結果だと言えるかもしれません。本来、ヒグマ管理というのは北海道庁や警察といった行政が主体となって行うべきものだと思うのですが、現状はその予算もないし、人的資源も足りておらず、結果的にその“しわ寄せ”がハンターにいっているわけです」

 尹は前出の記事を山田さんの次のような言葉で結んでいる。

〈誰かが駆除を担わなければならない。地域の安全を守るため、各地のハンターが危険と背中合わせの活動を続けていることを知ってほしい〉

2023年5月、朱鞠内湖で釣り客を襲ったと見られるクマ。船上から撮影された直後に駆除された(上川総合振興局提供)