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「100のパワーで全力投球しちゃうから、疲れちゃう」

統合失調症は遺伝的な要素があるともいわれる精神疾患である。両親のどちらかが統合失調症の場合、子供が発症する確率が飛躍的に上がる一方で、後天的な要素も含まれるので一概には言えない。

琴音の場合、遺伝かどうかは定かではないが、のちに風俗嬢になる――そして街娼になる現実を説明するためには、琴音が患う精神疾患についても知ってもらった上で話を進めなければならない。

心や考えがまとまりづらくなってしまう病気、統合失調症。

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健康なときにはなかった状態が表れる陽性症状(妄想、幻覚、思考障害)と、健康なときにあったものが失われる陰性症状(感情の平板化、思考の貧困、意欲の欠如、自閉、記憶力の低下、注意・集中力の低下、判断力の低下)があり、当事者の気分や行動、人間関係などに影響が出るらしく、琴音の場合、陽性症状のときは幻覚と妄想に襲われるという。

中程度の症状「2級」と診断されているという琴音は、いま服用している薬をテーブルの上に広げてみせてくれたことがあった。

飲んでいるのはエビリファイ(抗精神病薬)、ワイパックス(抗不安薬)、マイスリー(睡眠薬)、デエビゴ(睡眠薬)、リスパダール(抗精神病薬)と、それぞれの薬を指差しながら説明すると、「なんか、私はゼロか100かの性格で、仕事ってなると100のパワーで全力投球しちゃうから、疲れちゃう。だから一般職はもちろん、風俗も何か糧がないと続かないんですよね」と言った。そして続けた。

「統合失調症だけじゃなくASDも混じってるんだと思います」

「だから統合失調症だけじゃなくASD(自閉症スペクトラム障害)も混じってるんだと思います。でも、他人に大きな迷惑はかけないくらいで、いわゆる軽度ってやつ。精神科の先生にも言われました。あなたはASDっぽいけど、これ以上処方したら薬漬けになるからやめましょう、って」

琴音の密着取材は、振り返れば苦難の連続だった。約束の時間に遅れる――「家から出られない」とすっぽかす――そして、「やっぱり書かないでほしい」と取材自体を反故にする。