「『保守』=“国体”を守りたい人も“利権”を守りたい人もいる」「『希望』=失望までのつかの間の喜び」。
昨年、テレビ東京の選挙特番「池上彰の総選挙ライブ」で、池上彰さんが鋭い風刺を交えて選挙に関する用語を紹介した新企画「政界 悪魔の辞典」が大きな反響を呼んだ。
池上彰さんと、テレビ東京報道局統括プロデューサーで、10年以上池上さんと番組でタッグを組んできた福田裕昭さんが、「政界 悪魔の辞典」ができるまで、そして森友文書改ざん問題によって安倍政権が揺らぐ今こそ加えたい「新用語」について語った。
◆
テレビ東京は「他局に真似される」というのが宿命
―― 選挙特番から生まれた「政界 悪魔の辞典」のさらに詳しい用語解説を、池上さんに文春オンラインで連載していただくことになりました。そもそも、どのようにして「政界 悪魔の辞典」のアイディアが生まれたんでしょうか?
池上 テレビ東京の選挙特番というのは、毎回、他局がやっていない新しくて斬新な企画をたくさん準備しています。名物企画のひとつが「当確者プロフィール情報」ですね。当選したばかりの候補者のプロフィールに、「麻生太郎(77)副総理 財務大臣『冬はヒートテックに限る』新宿のビックロでまとめ買い」とかちょっと面白くて脱力してしまうようなコメントを添えて紹介するものです。ところがこのプロフィール紹介を他局が真似し始めました。バスに乗ってどこまでも取材に行く「バスツアー」も同じように真似されています。テレビ東京って、「他局に真似される」というのが宿命なんですね。
そういう状況の中で、福田君と「今回も何か新しいことをやりたいよね」という話をしていたんです。すると番組放送日の2週間ほど前、10月6日の深夜に突然、「政界版の『悪魔の辞典』を作るのはどうですか」というメールが来ました。実は福田君には、過去の苦い経験と「リベンジしたい」という思いがあったんですよね。
福田 そうですね。2017年秋の衆院選の時は、けっこう行き詰っていたんですよ。10月22日が投票で、急な選挙だったこともあって、あまり準備をする時間がありませんでした。池上さんと私は、キャスターとプロデューサーという立場で「当確者プロフィール情報」などの企画のやり取りをしていて、直前まで池上さんからダメ出しをされていたんです。「ちょっとこれ、どうせ真似されるんだから、何か新しいことを考えなきゃだめだよ」と。
総選挙投票日まで2週間の深夜2時。選挙特番のスタッフルームで、「何か他がマネしないことは出来ないかな」と考えていた時に、池上さんが「アネクドート」の話をしていたことを思い出したんですよ。
池上 「アネクドート」とは、旧ソ連時代の政治を風刺した小話ですね。
福田 そうです。30年前に、僕はプロ野球担当の記者をやっていましてね。プロ野球のシーズンオフになると、試合はないんだけれども何かコーナーを作らないといけない。そういった時期にプロ野球版の「悪魔の辞典」を作ろうと思いついたんです。ちょうど学生時代に好きだった『悪魔の辞典』(アンブローズ・ビアス著、1911年)という、普通の辞典の体裁で、いろいろな単語の再定義を行った本を引っ張り出して読み返していて、「これは何かに使えそうだぞ」とひらめきました。
例えば「『盗塁』は何で塁を盗むっていう字を書くんだろう」など、僕自身も野球用語について不思議に思っていたことを、スポーツニュースで面白おかしく説明することになりました。当時西武ライオンズの監督は送りバントを多用していて、「石橋をたたき壊しても渡らない」タイプの野球指導者だったんです。そういうわけで「送りバント」の項目では、「プロ野球を面白くなくしてしまう作戦のひとつ。西武が多用している」と紹介したんですよ。
池上 なるほど(笑)。
福田 その監督には全く受けませんでした。翌年キャンプ取材に行ったら嫌味を言われてしまいました。バントを多用しているのは事実だったんですがね(笑)。
池上 翌シーズンに取材へ行くまで、ずっと根に持っていたんですね。
福田 なにかをネタにする「風刺」というものには「境界線」があるんだと実感しました。「公人」だから大丈夫だという考えもあって紹介したのですが、痛い目に遭ったわけですね。こんなことも一緒にポッと思い出して、「政界 悪魔の辞典」のベースになった用語説明を書いて池上さんにメールを送ったら、池上さんはわずか15分ぐらいで修正して、夜中の2時30分に返信がありました。