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書き換え」と「改ざん」を「悪魔の辞典」に追加するなら?

福田 人間にしか表現できない「機微」ですね。今「政界 悪魔の辞典」に用語を追加するなら、「書き換え」と「改ざん」の意味の違いについては、ぜひ言及したいところです。

 

池上 そうですね。「改ざん」という言葉も、本来は単に書き換えること、という意味だったのですが、だんだん悪い意味に使われるようになってきました。

福田 「書き換え」というのは、その文章自体を整えて良くするというイメージがあります。「改ざん」は「書き換え」を悪質にしたものということでしょうか。

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池上 そういうことです。例えば、新人記者時代に私が書いた原稿をデスクが「書き換える」。それは問題のないことですが、全く違う内容になったら、それは「改ざん」ですよね。

福田 ということは、「書き換え」に嘘が加わると「改ざん」なんですね。

池上 そう。例えば「自分たちで直すのが書き換え」。「敵対勢力が行う場合は改ざん」と定義できるのではないでしょうか。

「いくら何でも、何度でも」

福田 太田充理財局長の「いくら何でも」は話題になりましたね。

池上 あの質問は侮辱的な発言でしたから、太田さんが「冗談じゃありません」と怒っていいはずの話ですね。でも官僚という立場をわきまえて「いくら何でも」と言いました。「いくら何でも」と繰り返すことによって、自分の思いを伝えながら、言葉尻は批判されないような言い方にしていましたね。「いくら何でも、何度でも」です。

福田 「ふざけたことを言わないでくれ」を役人用語に言い換えたら「それはいくら何でも、それはいくら何でもご容赦ください」になるんじゃないでしょうか。

池上 そうですね(笑)。「政界 悪魔の辞典」の着想元でもある「アネクドート」は、言論の自由がない状況のほうが、なんとか裏をかいて風刺しようとして面白いエピソードが出てくる傾向にあると思います。だから「書き換え」や「改ざん」をめぐって、これから面白い小話が出てくるかもしれないですね。

福田 ふっと笑っちゃうような、小話がほしい時代ですよね。政治的な事柄に面と向かって、ストレートに批判するというやり方もあります。選挙特番での池上さんは、基本的に直球を投げ込みますよね。でも「政界 悪魔の辞典」を作ってみて、政治を表現する方法には実に色々なやり方があるな、と最近つくづく思います。

池上 「政界 悪魔の辞典」は、ある政治的な瞬間をパッと切り取る「瞬間芸」ともいえるものでしたが、これから文春オンラインで連載をしていく時に、一つひとつの用語の背景にはこんな歴史があります、と解説を加えてさらに理解を深められるものになるといいですね。

『池上無双』(福田裕昭+テレビ東京選挙特番チーム、角川新書)と『悪魔の辞典』

写真=末永裕樹/文藝春秋
(後編に続きます)

 まもなく、文春オンラインで池上彰さんの新連載「政界 悪魔の辞典」が最新用語もふくめ大幅加筆してスタートします!