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池上彰氏が明かす「『政界 悪魔の辞典』が生まれたある夜のできごと」

池上彰×福田裕昭(テレビ東京プロデューサー) #1

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二階幹事長からは「あんまりいい質問じゃないですね」

――昨年秋の選挙特番では、二階俊博自民党幹事長との中継は、誰が観ても相当インパクトがあったと思います。

池上 二階さんは、最初からムスーッとしていましたよね。

福田 大勝した自民党幹事長なので、あえてそうしたのかなあ。どの局に対しても笑みひとつ浮かべず、インタビューに答えていました。池上さんの質問には特に厳しい表情でしたね。

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 二階さんは、池上さんの「なぜ二階さんに権力が集まるんでしょうか」という質問に対して「あんまりいい質問じゃないですね」と答えましたよね。あれは池上さんの「いい質問ですね」というフレーズを知っていたから、それを逆手にとってうまくさばいたのか、それとも全く知らずに自然と出た発言だったのか。

 

池上 いまだに謎ですけど、とりあえず面白かったです。

福田 面白かったですよね。だって限られた時間の中で、「それはいい質問ですね」と政治家から言われるような質問を、池上さんがするわけないですからね(笑)。

池上 「いい質問じゃないですね」と言われた時は、面白いと同時に、ある種「やった」と思いましたね。テレビ東京は「知的エンターテインメント番組」として政治の現場に行ってみよう、と試みています。政党がどんな活動をしているのか、候補者・支援者はどんな人たちなんだろうか。投票に行った人は、当日ぐらいは政治のことを考えますよね。ニュースや街宣車、ポスターを目にしてちょっと疑問に思うようなことをそのまま番組に反映しているのです。

福田 「政界 悪魔の辞典」では、ここ1年以内に脚光を浴びるようになった言葉、例えば「面従腹背」や「忖度」という用語も入れました。

・面従腹背 政治家から言われて「はい」と言うが一向に動かない官僚の様子。
・忖度 政治家は「私は知らない」と弁解できる。霞が関の官僚が得意。

池上 そうですね。「忖度」なんかまさにそうですよね。先日、あるシンポジウムで「AIが活用されると、報道の仕事はどうなるか」というテーマで、私はこういう話をしました。

 例えば今、ワシントンポストが、スポーツニュースはAI記者に書かせています。結果だけ入れれば記事になるからです。だからそういう意味でいうと、これからAIが色々な媒体で原稿を書くようになって、記者がいらなくなるでしょう。だけど財務省が決裁文書の内容を書き換えていたというのを、『書き換え』と報じるか、『改ざん』と報じるか。これはAIには判断できないでしょう。これは人間だけができることなのではないか、と。

 

福田 なるほど。「書き換え」より「改ざん」にはよりネガティブな意味合いがありますね。

池上 という前段があったうえで、さらに、実は産経新聞は、最初は「書き換え」と書いていたのですが、最近「改ざん」という言葉に変えました。それはなぜ変えたかというと「あの安倍総理を窮地に陥らせる財務省は許せない」という意図が働いて、「改ざん」という言い方に表現を変えたのではないか、という話をしたんです。そうすると登壇していた佐藤優さんが、「さすがにこれはAIにはできないですよね」と。