2024年1月1日に発生した能登半島地震。最大震度7を観測して、広い範囲で238名が犠牲になった(1月29日現在)。

 地図の専門家たちは今回の能登半島の地震、そして地震への備えについてどう考えているのか。地図出版社の老舗である株式会社昭文社ホールディングスの飯塚新真さんと竹内渉さんに聞いた。

飯塚新真さん(写真左)と竹内渉さん(写真右)

「いちばん大事だったのが(地図を)通常通り流通させること」

――飯塚さんは、阪神・淡路大震災のときは入社されてました?

ADVERTISEMENT

飯塚 はい。6年間の大阪支社勤務を終え、東京に帰任してまもなくの頃でした。

――地震のとき、地図の出版社はどういう対応をされるのか教えていただけますか?

飯塚 阪神・淡路のときは、まだ紙媒体が主流の時代でしたから、現地の方にも救援に行く方にも、紙の地図が必要でした。そういった方には、地図の無償提供をしましたが、いちばん大事だったのが、実は通常通り流通させることなんです。あのときは、印刷所も被災しましたが、大阪支社が中心となって被災地の地図をできるだけ確保するよう努力しました。

――当然、普段よりもたくさん売れる?

飯塚 突然、需要は増えます。

――では、増刷?

飯塚 はい。緊急増刷ですね。

竹内 東日本大震災のときは増刷だけでなく、大きな被害のあった地域の地図を新たに作って出版しました。

飯塚 もちろん、こういったときは売り上げどうこうではないです。とにかく品物を確保して、書店の流通を通常通り行う。同時に、警察・消防等で必要なところがあれば、無償でお送りするというスタンスです。

竹内 ただ、この無償提供というのは、提供先の優先順位の付け方が難しいんです。もちろん警察や消防など優先順位が高いところはお渡ししていますが、緊急時にはさまざまな組織、企業、団体、個人の方から依頼がきます。限られた地図を最大限効果的にお渡しするのは順位付けが難しいので、必要な人に必要なだけ行き渡らせるには、通常通り流通させたほうがいい。

 

飯塚 これは何度か大きな災害を経験し、気づいたことなんです。

竹内 一般流通させるのは、経済的支援の側面もあるんですよ。阪神・淡路のときは、神戸の書店さんから「店は開けられるけれど、売れるのは地図だけだ」という声がありました。地図が売れたら店も直せると。だから無料で配らず売らせてくれと店主の方から言われ、「こんなときに商売していていいのか」と思っていた営業担当の目が覚めたという逸話が弊社に伝わっています。