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楽天危機説に答える

 ――自前の回線で携帯電話事業を展開するための代償は小さくありませんでした。全国を網羅する携帯ネットワークを作り上げるため、すでに1兆円以上を投資しており、有利子負債は1兆8000億円を超えました。ネットや新聞で「楽天危機説」が広がっています。こうした状況を乗り越えられますか。

 三木谷 経営には絶対的な自信を持っています。赤字の原因はモバイル事業で、楽天市場や楽天カードなど他の事業は絶好調です。それを理解してくれているので、主力銀行のコミットメントライン(一定期間内の融資限度額)は変わっていません。

楽天グループの三木谷浩史会長 ©文藝春秋

 株価については機関投資家の皆さんから、楽天グループの評価は「とても難しい」という声を聞きます。70を超えるネットサービスとフィンテックを手がけ、そこにモバイルが加わったのが今の楽天グループで、それぞれ好不調の波があるので全体像が分かりにくい。コングロマリット・ディスカウントの側面もあるでしょう。我々も「もっと株式市場とのコミュニケーションを密にしていかなくては」と考えています。

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 株価も過去5年のピークだった1488円の半分以下まで落ち込んだ。財務体質を改善するため、楽天グループは楽天証券株を2023年までに約5割売却し、楽天グループの出資比率を80%から51%に下げた。2023年4月には傘下のネット専業銀行、楽天銀行を上場させて717億円を調達した。公募増資と楽天グループ会長兼社長の三木谷氏の資産管理会社などへの第三者割当増資で約3000億円を確保。楽天証券株の売却を含め2023年までに5500億円規模を調達した。こうした動きを「資産の切り売り」「グループの解体」と見る向きもある。

 ――株価は昨年末から持ち直し傾向にありますが、ピーク時に比べると大きく落ち込んでいます。モバイルに参入して以来、楽天グループの株式時価総額は一時、約1兆1000億円まで落ち込み、ピーク時の半分以下になりました。「資金難を乗り切るには主力事業を切り売りして、グループを解体するしかない」と書く雑誌もあります。

 三木谷 モバイルの契約数が増え始め、プラチナバンド(携帯に適した700〜900MHzの周波数帯域。楽天モバイルは2023年10月に700MHz帯を割り当てられた)を獲得したこともあって、株価は持ち直し傾向にあります。しかし、まだ十分とは言えず、株主の皆さんには申し訳なく思っています。今は「もう少しだけ待っていてください」としか言えません。一方で個人的には、ネットバブル崩壊の時に一度、時価総額500億円のどん底を経験しているので「まだ1兆1000億円もある」と感じる自分もいます。

 全国に何万ヶ所もの基地局を建てて巨大なネットワークを構築する携帯電話事業は、忍耐力が求められるビジネスです。例えばTモバイルが米国の最後発として携帯電話サービスを始めたのが2002年。初めて黒字になったのは2013年で、11年を要しています。そのTモバイルがスプリント(旧スプリントネクステル)を買収し、今では契約件数が1億1000万件を超え、確か米国でナンバーワンになっているはずです。収益面ではまだベライゾンが上だったかな。

 とにかくモバイルは、そのくらい手間と時間のかかる事業なので、最初からすぐに利益が出るとも思っていません。困難なことは分かっていましたが、それでも「やるべきだ」と判断したので、腹を決めて参入したのです。でも参入した以上、勝つまでやめないのが楽天流です。