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 インド初代首相のジャワーハルラール・ネルーもタンドーリ・チキンが好物で、公式晩餐会の定番メニューに入れさせたという逸話があるほどだ。

 だが、タンドーリ・チキンも、日によって余りが出てくる。冷蔵設備も整っていなかった当時のこと、残った肉は水分を失い、パサついていく。そこでグジュラールたちは「フードロス」回避のために一案を講じた。

 トマトやバターでグレーヴィー(ソース)を作り、そこにチキンを混ぜ合わせることでジューシーさを復活させよう、と。「バターチキン」と名付けられたその料理は次の日に店で供され、好評を博した――。

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デリーで見つけたチャパーティー焼き器(本書より)

「オリジナル1947バターチキン」の味は?

 こうして誕生したバターチキンは、モーティー・マハルの看板メニューになっていった。それは2020年代の今日でも変わりがない。だがその一方で、70年以上の歴史の中でさまざまな微調整も行われてきた。それをわかりやすく説明してあったのが、モーティー・マハルの系列店「ダリヤーガンジ」のメニューだ。

 デリーのインディラ・ガンディー国際空港から車で10分ほど行くと、エアロシティというショッピングモールや高級ホテルが集まる商業エリアがある。オフィスビルもあり、日本の商社もここに事務所を構えている。

 そのレストラン街にあるダリヤーガンジで食事をしたときのことだ。バターチキンを頼もうとしたら、「オリジナル1947バターチキン」と「現在のバターチキン」の2種類がある。

濃厚なグレーヴィーとチキンの相性が最高の「オリジナル1947バターチキン」(インドのレストラン「ダリヤーガンジ」にて/本書より)

 何が違うのかと思ってメニューをよく見ると、対比表が示されていた。それによると、オリジナル版はグレーヴィーが濃かったが、まろやかさを出すにあたってクリームは使わず、フレッシュバターだけを用いていたという。これに対し現在版は、グレーヴィーが滑らかなのが特徴で、クリーミーに仕上がっているという。さらに、チキンもオリジナルは骨付きだったのが今ではボンレスという違いもある。

 それならばとオリジナル版をオーダーしてみたら、たしかによくあるバターチキンよりもグレーヴィーがしっかりしていて、どこか武骨な感じがしたものだ。どちらを美味しく感じるかは好みの問題だろうが、70年の中で生じた変化は、一地方料理からメジャーな存在になる過程で「食べやすさ」と「洗練さ」を追求した結果なのだろう。