香川県の豊島が、世間から貼られたレッテルは「ゴミの島」……。 青い海、白い砂浜は汚染され、地元民たちは健康や風評被害に苦しめられた日本史上最悪の不法投棄事件とはいったい? 風来堂編著『ルポ 日本異界地図』(清談社Publico)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

2015(平成27)年に撮影された豊島産廃処分場

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史上最悪の不法投棄事件

 波が穏やかで風光明媚な瀬戸内海の東部、小豆島から西に3.7kmの海上に浮かぶ「豊島」。面積14.5平方m、人口780人ほどの小さな島だ。温暖な気候と青い海、白い砂浜、緑豊かな草木に恵まれ、古くから農業や漁業、酪農が盛んな「豊かな島」として栄えてきた。

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 この美しき島が悲劇に見舞われたのは1970年代のこと。通称「豊島事件」と呼ばれる、日本史上でも類を見ないであろうほどの不法投棄事件が起こったのだ。

 この事件は1965(昭和40)年ごろから島西端に位置する水ヶ浦と呼ばれる海岸で、この土地を所有する豊島総合観光開発株式会社(以下、豊島開発)によって土壌が削られ、大量の土砂が島外に持ち出されたことから始まる。土砂に含まれるガラス原料である珪砂などは高度経済成長期であった当時、需要が高く、その売買が目的だった。

 豊島開発は、やがて土壌を掘り尽くすと、今度は跡地に有害産業廃棄物処理場を計画。全国の工業地帯などで出た危険な廃棄物を引き取り、この海岸で処理しようというものだ。当然、住民たちは猛反対。香川県庁へのデモ行進、また豊島開発および当時の代表取締役を被告とした廃棄物処理場の建設差し止めを求める民事訴訟を高松地裁に提起するなどして反対運動を展開していった。

島内の街並みは産廃処分場がすぐ近くにあったとは思えないほどのどかだ ©風来堂

 こうした動きを受けて豊島開発は申請にかかわる事業内容を「ミミズ養殖による土壌改良剤化処分業」へと変更。当時の香川県知事・前川忠夫は反対する住民に対して「これでは事業者いじめだ。豊島の海は青く、空気はきれいだが、住民の心は灰色だ」と非難し、1978年(昭和53)2月に産業廃棄物処理業の許可を行った。