北朝鮮が得た“3つの見返り”
では、北朝鮮は代わりに何を受け取っているのだろうか。現時点で、ロシアからの「贈り物」は3つある。1つは金正恩総書記の専用車だ。朝鮮中央通信は20日、ロシアのプーチン大統領が18日にロシア産専用車を金正恩氏に贈ったと伝えた。贈呈式に出席した正恩氏の実妹、金与正・朝鮮労働党副部長は「プーチン大統領からの贈り物は、朝ロ両国首脳間に結ばれた格別な親交の証で、最も立派な贈り物だ」と語ったという。
金正恩氏は昨年9月、ロシア極東・ボストーチヌイ宇宙基地で行われた首脳会談の際、プーチン氏の専用車を見せてもらい、実際に試乗してみた。米ニューズウィーク誌などによれば、プーチン氏の専用リムジン「Cortege」1台の価格は9万5500ドル(約1440万円)から11万1500ドル(約1680万円)。これに対して北朝鮮の弾道ミサイルは1発あたり最低でも300万ドル(約4億5200万円)だ。専用車だけでは、とても釣り合いが取れない。
2番目のロシアからの「贈り物」は観光客だ。2月9日から12日にかけ、3泊4日でロシア人団体旅行客97人が北朝鮮の平壌や馬息嶺スキー場などを訪れた。旅行代金は1人約11万円だという。1人あたり5万円の粗利と見積もっても、総額500万円の利益にしかならない。ロシアは3月にも第2弾の旅行客を送り込む予定だが、北朝鮮が得られる利益はそれほど大きくはないだろう。
もちろん、北朝鮮はこうした「人的交流」を隠れ蓑に、国連制裁決議が禁じている北朝鮮労働者のロシアへの派遣を強行する腹積もりだろう。国際社会の反発を避けるため、労働ビザではなく、観光や留学ビザを使うとみられる。
そして、3番目の贈り物が、工作機械や発電機、重機などのインフラ設備だ。米韓関係筋によれば、ロシアと北朝鮮を往復しているロシア貨物船に積載して運んでいるという。金正恩氏は1月15日の最高人民会議(国会)で演説し、「今年、経済事業で特別に役割を高めるべき部門は機械工業である」と語った。これから10年間にわたり、毎年20の自治体に工場を建設する「地方発展20×10政策」も新たに打ち出した。こうした新政策は、ロシアからの工作機械の供給が裏付けになっているとみられる。
北朝鮮は満足しているのか
ところが、北朝鮮はこれで満足しているというわけではなさそうだ。韓国政府当局者は20日、韓国記者団に対し、ロシアが専用車を贈った背景には、北朝鮮の不満を解消する狙いがあったとの見方を示した。