ところが、父からの返答は予想外のものだった。
「あの人とは別れたんだよ」
「え? なんで!?」
状況が呑み込めなくてどぎまぎしている私に、父は続けた。
「彼女は結婚したいってなってたんだけど、お父さん、なんだかめんどくさくなっちゃって」
その言葉で、祖母がなぜあんなに怒ったのか、なぜこの人をそんなにも嫌っていたのかわかったような気がした。
自分の父が、とんでもないクズ男であることを悟ったのだった。
すっとこどっこいなプライド
第2章で書いたとおり、私と父の暮らしは、「おばあちゃんのほうが大切だから」という父の突然の終了宣言によってあっけなく幕を閉じた。父は、自分の言葉どおり、植物状態になった自分の母(私にとっては父方の祖母)のことは、ちゃんと看取ったらしい。
父方の祖母には、数回しか会ったことがなかったけれど、気の強い人だったと聞いている。
父が借金をつくったときに「お前なんかもう死んでくれ」と激怒したらしい。
それでもなんとかお金を工面して父の借金を返してくれたのだから、父のことは大切に思っていたのだろう。
養女として千葉の建具屋さんに引き取られた祖母は、婿を取り、親から受け継いだ建具屋さんを大きくしていったそうだ。
ところが父は、そんな祖母に、すごく横柄な態度を取っていた。
父は、祖母のことを「母さん」や「お袋」などではなく「君」と呼んでいた。祖母が少しでもわからないことがあったり、間違ったことを言ったりすると「あのね、だから君はね」と、上から目線で説明していた。私はそういう父の姿をすごくダサいと思っていた。
ちなみに、以前父と口論になったときに私が父のことを「あなたは」と言ったことがあるのだが、父は「親に向かって『あなた』とはなんだ!」とひどく怒った。
「『あなた』が不満なら『君』ならいいわけ?」と喉まで出かかったが、さすがにやめておいた。プライドの高い人って、ほんとうに面倒くさいなと思った。
自分の命とプライド 父が守ったのは…
祖母の死後、父は事業に失敗し、筋の良くないところからお金を借りてしまったという。
「そのお金を返さないと、お父さんはヤクザにボコボコにされてしまうんだ。代々守ってきた家も、売らなくてはいけなくなってしまう」と私に電話してきた。