ぶっちゃけ交通の便もさして良くないど田舎の家なんて、あってもなくてもどうでもよかったけれど、ヤクザにボコボコにされるのはよろしくない。困った私は、ひろゆき君に相談した。
ひろゆき君は、北海道のほうに自分の知り合いがいて、そこで仕事を紹介してあげられるかもしれないから、北海道に逃げたらどうかと提案してくれた。
それを父に話すと、なんと嫌だと言ってきた。そしてこう続けた。
「お父さん、人に使われて働いたことがないんだ。だから、いまさら人の下について働くなんてできない」
私は心底「こいつバカなんじゃないの」と思った。
「あんたさ(もはやお父さんと呼ぶのをやめた)、自分の命と、そのくだらないプライド、どっちが大事なの」と私が言うと、父は「お父さんは、人の下で働くくらいだったら死んだほうがましだ」と答えた。
それで私は、父を助けるのをあきらめた。
「家のものをヤクザに取られないように」用心棒を雇う
ひと月くらいして、父の携帯電話が通じなくなり「ほんとうに死んだのか」と、わりと本気で心配した。父の実家の固定電話に電話をかけると通じて、何回かの呼び出しのあとに留守番電話になった。
「もしもし、ゆかです。何度かけても携帯が通じないから、心配になって電話しました」と、メッセージを残した。
すると、翌日、知らない番号から電話がかかってきて、出ると父だった。そして、例のヤクザから逃げるために、友人の家で匿ってもらっていることを聞かされた。
「私が留守電に残したメッセージは聞いたの?」と私がたずねると、驚愕の事実を告げてきた。
「家のものをヤクザに取られないように、あの家にはいま、用心棒を置いてるんだ。留守電のことは、そいつから聞いたから大丈夫」
「え……」
と言ったまま私は言葉を失った。
結局自分の生家は守れず、生活保護暮らし
「大丈夫。ヤクザに対抗するために、お父さんもちゃんとその筋の人を連れてきたんだ」
ぜんぜん、大丈夫じゃないんですけど。
私は黙ったまま「その筋の人」が、息をひそめて私の留守電を聞いている様子を想像して身震いした。
その後父は、そこまでして守りたかった自分の生まれ育った家を守ることができず、けっきょく家は売られてしまった。そして、生活保護を受けて暮らした。