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堀内 新劇出身の人だからダメじゃなくて、芝居っぽくない芝居を入れたかったのだと解釈しています。他の声優陣もそれを理解しているからカラッと晴れの空気を出せた。『フルハウス』の吹替を僕たちのような声優がやってなかったら、流行ってなかった気がします。

──吹替のキャスティング自体も斬新だったんですね。

堀内 僕以外、みんな歌もうまい声優なんですよ。でもね、僕はもうだめで(笑)。ジェシーが歌うでしょ。すると僕も歌わないといけない。しかもジェシーってエルヴィス・プレスリーも好きだから、その要素も入れないといけない。難しいでしょ? 僕が苦戦してるのをみんな知ってるから、山ちゃんも(大塚)芳忠さんもいじってくるの。まぁそれが楽しかったんだけど(笑)。

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 吹替といえばね、色々思い出はありますよ。地上波で洋画の放映が全盛期だった時期、ゴールデン洋画劇場の『ブルーサンダー』で、ダニエル・スターン演じるリチャード巡査の吹替担当になったんですよ。まだ僕が新人だった頃です。収録とは別日にリハーサルがあって、集合時間に事務所の社長と一緒に行ったら10分遅刻しちゃって。そしたら台本が片付けられてるんですよ。

──「台本をくれ」と言い出しにくい状況ですね……。

堀内 そうなんです。共演してる仲のいい声優に「5000円で台本を売ってくれない?」って掛け合いました。

──(笑)。

堀内 結局、監督に謝りに行って、社長と2人で仲良く怒られてきました。遅刻したのは僕のせいじゃないのに!(笑)。

──今では懐かしいエピソードに。

堀内 また別の失敗談で、3日連続、それぞれ別の映画で僕が主役の吹替をやった時、1日目の映画ですごくうまくできて褒められたんです。2日目の映画もすごくいい感じにできました。気分が良くなって、その夜に飲んじゃったんです。

──ああ……!

「巨匠には絶対になりたくない」©佐藤亘/文藝春秋

堀内 そしたら家での準備がおろそかになって、収録で喋りの尺が全然合わなくて、何度もリテイク。もう、ご迷惑をおかけして申し訳ない気持ちでいっぱいでした。こうしてちょっと気を抜いた瞬間に思い知らされるんだと猛省しましたね。

「巨匠には絶対になりたくない」

──吹替、ナレーターも数多くこなしながら、昨年は『踊る! さんま御殿!!』に出演していましたね。

堀内 「出てもいいのかな?」って思ったけど、出たね(笑)。僕は自分のイメージとか、自分の色ってわからないままここまで来てるんですよ。

──自分のイメージですか。

堀内 そう。投げられたボールは全部キャッチするし、返します。便利屋でいたいんですよ。大御所だと一行だけのセリフは受けたくないとか、ちょい役なら断るとか、そういう人もいます。僕は全くそういったものはありません。三枚目の役も、みんな歳を重ねて真面目になって冒険しなくなるじゃないですか。

 アホな役どころが来たら、全力でアホをやりたい。虚勢なんか絶対に張らないし、巨匠には絶対になりたくないですね。