「多様性の時代」、映画やアニメで描かれるヒーロー像はどのように変化しているのか。

 ここでは、専修大学国際コミュニケーション学部教授であり、『戦う姫、働く少女』『新しい声を聞くぼくたち』などの著作で様々な作品の読み解きを行ってきた河野真太郎さんの『正義はどこへ行くのか 映画・アニメで読み解く「ヒーロー」』(集英社新書)から一部を抜粋。

 日本のSNSでも話題を呼んだ「バイセクシュアルのスーパーマン」や「黒人のアリエル」は、アメリカ社会でどう受け止められ、どのように位置づけられるのか。(全2回の1回目/続きを読む

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『スーパーマン:サン・オブ・カル=エル/ザ・トゥルース』(2023年、小学館集英社プロダクション)

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バイセクシュアルのスーパーマン?

 スーパーヒーローたちは、相変わらず元気である。MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の世界は拡大の一途だし、日本ではウルトラマンや仮面ライダーといった往年のヒーローたちが、装いを新たにスクリーンで躍動している。ヒーローをモチーフにした漫画やアニメ作品も変わらず豊富だ。

 だが、それらのヒーローたちが、「多様性」が叫ばれる現在、奇妙な屈折なしでは存在を許されなくなっていることも確かだ。正義と悪の区別に悩むヒーロー、民衆に批判されるヒーロー、年老いていくヒーロー、そしてなんといっても、男らしさ全開では全然説得力を持ちえなくなったヒーロー。

 実際、とりわけアメリカのヒーローものでは、「白人・男性・異性愛者・健常者・ミドルクラス」というマジョリティ属性のヒーローは保留抜きでは描けなくなっている。例えば、ヒーローと言えばみながまずは思いつくであろうスーパーマン。そのスーパーマンがバイセクシュアルであるという設定が物議をかもしたのは記憶に新しい。

 そう、あの、白人でマッチョでセクシーで異性愛者のスーパーマンが、バイセクシュアルになったのである。

 2021年に出版された「スーパーマン」シリーズの『スーパーマン:カル゠エルの息子』では、オリジナルのスーパーマンであるクラーク・ケントとロイス・レインとの間の息子ジョン・ケントが新スーパーマンとして活躍するが、その第5巻では、世界のあらゆる人を救おうとしてバーンアウト状態になってしまう。そんなスーパーマンを介抱するのが、友人で記者の日系男性ジェイ・ナカムラであった。長い眠りから覚めたジョンはジェイとキスをする。新スーパーマンはバイセクシュアルであることが明らかにされたのだ。

 作者のトム・テイラーは、「より多くの人が、コミック界で最もパワフルなスーパーヒーローの中に自分を見ることができるようになりました」と述べた。実際、多くのファン(とりわけ同性愛者のファン)は、自分が同一化できるスーパーマンがようやく登場したと喜んだ。