「多様性の時代」、映画やアニメで描かれるヒーロー像はどのように変化しているのか。
ここでは、専修大学国際コミュニケーション学部教授であり、『戦う姫、働く少女』『新しい声を聞くぼくたち』などの著作で様々な作品の読み解きを行ってきた河野真太郎さんの『正義はどこへ行くのか 映画・アニメで読み解く「ヒーロー」』(集英社新書)から一部を抜粋。
河野さんが『トップガン マーヴェリック』を見て興奮しながらも、抱いた「不安」の正体とは――。(全2回の2回目/最初から読む)
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還暦をぶっとばせ――『トップガン マーヴェリック』
加齢は多様性なのだろうか。一つには、ヒーローと言えば若々しい存在であるということがある。中年や老年はヒーローにはなれないのか。差別ではないのか。
いや、こと加齢については、(特に男性の場合)加齢にしたがって権力を帯びていく人たちも多いのだから、それは一概に差別とは言えないのかもしれない。女性が若さを失ったら「退場」させられるのに対して、男性は年齢とともに活躍の場を得られるようにもなるのではないか? 実際、そのような現実を反映するかのように、ハリウッド映画における男女の出演比率を調べたある研究によれば、20代までは女性の方が出演比率は圧倒的に高いが、30代で拮抗し、40代以降は男性の方が比率が高くなる。女性たちは「退場」させられているのだ。
というわけで、こと男性に関して、これは「差別」といった問題ではない。それにしてもやはり、ヒーローと言ったときにはどうしても、ジェンダーに関係なく「若さ」の呪縛があるのかもしれない……。
そういった諸々を、2022年に公開されると大ヒットとなった『トップガン マーヴェリック』は考えさせた。この映画はいわゆるスーパーヒーローものではないものの、主人公はこの後述べるようにアメリカン・ヒーローの典型である。そのヒーローが還暦を迎えたときに、何が起きるのか。それを考えてみよう。
『トップガン マーヴェリック』は、1986年にヒットした『トップガン』の後日譚である。映画の中では、現実と同様に36年の月日が流れている。告白しておけば、1974年生まれの私にとっては、1986年公開の『トップガン』は少年時代の映画体験、アメリカ文化体験の中心の一つだった。
トム・クルーズ演じるピート・“マーヴェリック”・ミッチェルは、少年時代に私が出会ったアメリカン・ヒーローの原像だったと言っても過言ではないし、年齢相応に、カッコイイ戦闘機に憧れた私にとって、F-14トムキャットは「ザ・戦闘機」であった(ちなみにF-14は1982~83年に放映されたアニメ『超時空要塞マクロス』に登場する、戦闘機から人型ロボットに変形できる兵器「VF-1バルキリー」のモチーフであったし、新谷かおるの漫画『エリア88』(1979~86年)の中で重要な役割を果たす戦闘機であった。そのような文化的刷りこみというか、重要性をこの戦闘機は持っていた)。