心配なのは、この映画を観てその気になってしまった人びとが、現実世界にそれを持ち帰って、次の日から職場で“マーヴェリック”になってしまわないか、ということだった。「若いヤツらなんかにはまだまだ負けないぞ」、と。そんなことが起きたら、目も当てられない事態になるのは火を見るよりも明らかというものだ。
そのような心配と奇妙に、対照的に響き合う作品が、『トップガン マーヴェリック』と同時期に公開された。配信サイトの「Disney+」で2022年の5月から6月にかけて配信されたドラマ『オビ゠ワン・ケノービ』であった。
オビ゠ワン・ケノービは、「スター・ウォーズ」シリーズに登場する、ジェダイの騎士の一人である。最初に公開された『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』で、悪役のダース・ベイダーの刃に倒れることで、主人公ルークたちの道を切り開く。
その後1999年から公開されたエピソード1~3で、私たちは若きオビ゠ワン・ケノービの活躍を目にすることになった。エピソード4ではアレック・ギネスによって演じられ、白髪の隠居老人という感じだったオビ゠ワン(ベン)は、エピソード1~3では若々しいユアン・マクレガーによって演じられた。
とりわけ、オビ゠ワン・ケノービのファン(私もその一人だ)にとって印象深いのは、『エピソード3/シスの復讐』(2005年)におけるグリーヴァス将軍との対決だろう。指2本を立てた左手を前に突き出し、右手のライトセイバーの剣先を側頭部から前に向ける「構え」は若きオビ゠ワンの象徴だ。ちょっとむずがゆくさえなるこの決めポーズは、ある種のやんちゃさと、若く力のみなぎるジェダイの自信がないまぜになったものであった。
エピソード3の結末では、ジェダイ騎士団が虐殺されて崩壊し、オビ゠ワンはダークサイドに堕ちてしまったアナキン・スカイウォーカーと最後の対決をし、勝利する。オビ゠ワン・ケノービは、アナキンと、惑星ナブーの女王パドメの間に生まれた双子のうち、ルークを辺境の星タトゥイーンに隠し、自らもジェダイとしての力を封印して姿をくらまし、希望の星であるルークを遠くから見守ることになる。
ドラマ『オビ゠ワン・ケノービ』はそんなエピソード3の10年後を舞台とする。若きオビ゠ワンが躍動したエピソード3が制作されてから17年。私は、彼のどんな姿が見られるのかと期待に胸を膨らませた。
しかしその結果は、落胆であった。10年という歳月以上に老けこんだオビ゠ワンは(それは別に、ユアン・マクレガーが17歳年をとったからではないだろうが)、ライトセイバーもフォースも手放し、砂漠で日雇い労働に従事している。
ドラマ本体は、惑星オルデランの王室オーガナ家にかくまわれていたルークの双子のきょうだいレイアが誘拐され、それをオビ゠ワンが救出する過程でダース・ベイダーへと変わり果てたアナキン・スカイウォーカーと対決するというものである。