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 ところが、その夜、日経の編集局から日経の営業部を経由して、電通の新聞局(広告主)に事前通達があった。

「S社の全面広告の掲載面を、予定していた第1経済面対向から、スポーツ面対向へ移動します」

 新聞社の紙面編成を拒否することはできない。われわれ電通に検討の余地はなく、決定事項の通告にすぎないのだ。電通の新聞局の担当から、すぐ私のもとに報告があった。

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 日経の広告局営業担当者の説明によると、その日の夕方にS社が新商品についてのプレスリリースを出し、第1経済面でその商品を取り上げることになったのだという。日経は経済ニュースについては「提灯記事」を書かない、という鉄則がある(それが本当かどうかはここではとりあえず措く)。

 日経新聞としては、「新商品のニュース記事の対向面には、その商品の広告を掲載しない」という編集の鉄則にしたがって、S社の広告をスポーツ面対向に移動させた、というわけである。

 報告を受けた瞬間、田代部長の顔が思い浮かび、まずいことになると直感した。

 だが、「契約上」広告の掲載面は、最終的には新聞社側が決められることになっている。田代部長から問い合わせがあれば、説明するしかないと考えていたのだ。

到着早々、ダブル土下座

 吉井部長と私が店を訪れると、酒に酔ったせいか、怒りが治まらないのか真っ赤な顔をした田代部長が待ち構えていた。

「おいっ、おまえら、そこへ座れ!」

 田代部長はレストランの床を指さした。スーツ姿の吉井部長と私は革靴を脱ぎ、横に揃えて置くと、申し合わせたように同じタイミングで土下座した。

「申し訳ございません!」

「なんで、うちの広告がスポーツ面に動かされなきゃなんねえんだよ! 今すぐ、日経の輪転機止めてこいよ! さもなきゃ、広告費は一銭も払わねえからな!」

 こちらから説明するいとまも与えず、まくし立てる。田代部長の怒声に、周囲のお客の視線が集まるのがわかる。大の大人が並んで床で土下座しているのだ。異様な光景だろう。

 だが、周囲の視線など気にしてはいられない。田代部長のプライドを傷つけないよう、私は正座のまま顔をあげて説明を始めた。

「広告の掲載面の変更は、御社のプレスリリースが今日の夕方に行なわれたからでして……」

「ふざけるなよ。そんなこと聞いてねえぞ」