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 親子ではあっても、指導者と選手ですから、父親は大谷を特別扱いすることはせず、大谷自身も「同じぐらいの子が自分の息子と同じ実力だったら、息子ではない違う子を試合で使わなければならない」ことをよく理解していました。

「息子である自分が試合に出るためには圧倒的な実力がなければいけない。チームのみんなに納得してもらえる実力がなければいけない」と幼いながらに覚悟を決めた大谷は、仲間の選手の何倍も練習することで、圧倒的な実力をつけていきます。

 結果、18個のアウトの内17個を三振で奪うほどの力をつけるわけですが、そこにあったのは父親や周囲の期待に応え、信頼される選手になりたいという思いだったのです。

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高校時代の大谷翔平 ©文藝春秋

「一番のドーピングじゃないかな」試合中の大谷に力を与えているものとは

やっぱり楽しいですよね。
一番のドーピングじゃないかなと思っているので、声援があるかないかは

(「ルポ大谷翔平」P80)

 野球に限ったことではありませんが、2020年に始まった新型コロナの世界的流行はそれまで当たり前だったものが当たり前でないことを教えてくれました。国によって違いはあるものの、多くの国で大勢の人が1か所に集まることや、声を出して応援するといったことが厳しく制限されたことで、多くのスポーツやエンターテインメントが中止や無観客に追い込まれています。

 メジャーリーグは2020年には予定より4か月遅れで開幕、試合数も60試合に短縮されています。選手たちもビデオルームが密になるのを避けるため、試合中に映像を見られなくなったことで、大谷翔平も自分の投球や打撃を「客観的に見れないっていうのは嫌だった」と振り返っています。幸い翌21年からは人数制限はあるものの、客席にはファンが戻ってきたことで大谷は元気を取り戻します。こう話しています。

「『試合やってるな』っていう感じはしていたので、やっぱり楽しいですよね。一番のドーピングじゃないかなと思っているので、声援があるかないかは」

 大谷によると、観客の前でプレーすることで、打席でもマウンドでもより集中できる、データではわからないものの、球場全体の雰囲気がボールとバットに乗り、大きな力になるといいます。同年、大谷は見事にМVPを獲得します。