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 その際に私は、本人と直接、非公開で1時間ほど話す機会をいただけました。多くを明かすことはできませんが、その中で最も印象的だったのが「AIの世界で交わされているという議論」についての話です。

 それはつまり「膨大なデータをもとに、賢いソフトウェアを構築する」という現在の開発方法を用いることで、AIはどこまで進化するのか、というものです。

AIは世界を理解していない

 サムはこのように言っていました。「進化とは暴走列車であり、なにものもそれを止めることはできない。もしかしたら、これは天国まで伸び続ける木のようなものかもしれない」と。

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 つまり、われわれが今見ているものは、途中駅に過ぎない。実際に暴走列車が行き着くのは、人間の仕事の大半をこなせるAI(人間のように、理解して学習して実行できる知能)だということでした。われわれがこれまで見てきたようなAIが行っているのは、大規模なパターン照合に過ぎないのです。すなわち、本来の意味では、AIは世界を理解していないのです。

 たとえば、テーブルの端に置いてある水の入ったコップが傾き始めたとしましょう。この後、何が起こるのかは、3歳児でもわかりますね。つまり、コップが床に落ちて、一面が水びたしになる。

 ところが、グラスがテーブルの端っこから落下し、床に落ちて水びたしになっている様子を、何千回から何万回もビデオで見なければ、AIシステムは、この後何が起こるのかを知ることも、予測することもできません。

OpenAI社のサム・アルトマンCEO ©朝日新聞社

改良を重ねて進化し続けるが…

 しかし、このような状況だと知っていても、サムはとても楽観的です。それは、シリコンバレーに勤める人々も、世界中のAI関連の仕事をしている人たちも同じです。

 なぜそのように考えているのか。それには理由があります。彼らが見ているのは、AIが、現在置かれている状況ではないからです。

 つまり、彼らが見ているのは、これまでのAIがたどってきた進化の軌跡なのです。OpenAIの言語モデル(GPT-3)は2020年に発表されました。その後、会話できるようなバージョンを搭載した「ChatGPT」が登場してくるのは、2022年11月のことです。開発に携わった人たちは、このChatGPTとその進歩の速さに心底驚いていました。