1959年作品(第一部105分、第二部96分)
松竹
各3300円(税抜)
レンタルあり

 第二次世界大戦中の中国戦線を舞台にした映画『人間の條件』は、全六部・合計上映時間は九時間半に及ぶ、日本映画史上屈指の超大作である。

 一九五九年から六一年にかけて二部ずつ公開され大ヒットした本作を通し、気鋭の存在だった小林正樹監督は「巨匠」に、一介の若手俳優だった仲代達矢は「主演スター」に、それぞれステータスを大きく上げることになる。

 そして今年は、小林監督の生誕百年、没後二十年。毎夏戦争映画について書いてきた本連載としては、このタイミングで今年はこの『人間の條件』を扱うことにしたい。公開時と同じく、三週に分けて二部ずつ掲載していく。まず今週は第一部「純愛篇」と第二部「激怒篇」を取り上げる。

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 舞台は大戦只中、一九四三年の満州。南満州鉄鋼会社に勤める主人公の梶(仲代)は正義感が強い純粋な男で、そのために社内で疎まれて鉱山の労務管理を命じられてしまう。現地では中国兵の捕虜たちを始めとする工人たちが過酷な労働条件に喘ぎながら働かされていた。そんな状況を目の当たりにした梶は、生産効率の向上を主張して、増産のためなら人の命など物の数としない残忍な現場監督や軍部の人間たちと衝突する。

 この一部と二部は、荒涼とした満州の鉱山での梶の孤独な闘争が描かれる。仲代のまだ青々しい若さの残る風貌や、余裕が全く感じられない必死の芝居が、理想に燃える梶の純な雰囲気をそのままに体現していた。一方、そんな仲代を取り囲むのはクセ者揃いのベテラン役者たちだ。

 たえずニコニコと偽善的な笑みを浮かべ続ける所長役の三島雅夫、有無を言わさぬ冷酷さと傲慢さを放つ憲兵役の安部徹、梶の正義をひたすら嘲笑(あざわら)う食糧班役の芦田伸介……。役の描かれ方はもちろんなのだが、演じる役者たちの太々(ふてぶて)しいまでに余裕の漂う芝居が仲代とはどこまでも対極的で、そのことが梶に立ちはだかる敵の強大さをより一層浮き彫りにしていた。

 特に強烈なのは小沢栄太郎。増産のために工人を徹底していたぶる現場監督を、叩き上げならではの泥臭さを放ちつつ演じる。その揺るぎない執念が梶の理想主義の青さを際立たせるのだが、それだけではない。そんな役を仲代の俳優座での大先輩でもある小沢が演じることで「挑む仲代、弾き返す小沢」とも映り、役柄同士の対立と梶の無力さがより生々しく伝わるのである。

 つまり本作は、梶の闘争の物語であるのと同時に、仲代達矢という一人の若者が経験豊富な先輩たちに芝居を通してぶつかっていく様が役柄のままに映し出される、ドキュメント的な作品でもあるのだ。