先週に引き続き今回は戦争大作映画『人間の條件』の第三部と第四部を取り上げる。
仲代達矢扮する主人公の梶はいかなる過酷な状況にあっても人道主義を貫こうとする正義漢だったが、そのために戦況が逼迫していく中で周囲との対立を深めてしまう。第二部までは満州の鉱山で労務管理をしていたが、この三部からは臨時召集を受けて極寒の対ソ連戦線へ向かわされる。そこでは陸軍名物、古参兵たちのイビリが待ち構えていた。
ただ、二部までと比べて梶の姿は大きく変わっていた。理想主義に燃えてどこか青臭さの漂っていた面影は消え、的確な状況判断と卓越した戦闘能力を持つ、立派な一人前の兵士として安心感すら与えてくれる。そのことは仲代自身にも言えた。前回も述べたように、本作は梶の戦地での軌跡を追うのと同時に、それにつれて役者として成長する仲代の変化を映し出すドキュメントでもある。そのため、二部まで線の細い風貌だった仲代が、梶の役柄としての変化に応じて驚くほど逞しく精悍な姿に変貌しているのだ。久しぶりに再会した妻に「俺は変わっただろ」と言う場面があるが、その言葉に十分な説得力を与えるものがあった。
描かれる人間関係も、大きく変化している。二部までは梶を取り巻くのが百戦錬磨の大人たちで、演じる役者も仲代の大先輩たちだった。それが三部からは、梶は戦地で同僚たちと過ごす展開になるため、仲代が同年代の役者たちと絡む場面が多くなっていく。
中でも印象的な役者が二人いる。第三部で梶と同僚の訓練兵役を演じた、佐藤慶と田中邦衛だ。両者とも、本作が本格的映画デビュー作となる。
田中が演じるのは、気が弱く体力がないため訓練についていけない落ちこぼれの小原。佐藤が演じるのは、左翼思想の持ち主でやる気のない態度を続ける、ニヒルな新城。彼らと梶の関係が物語の核になる。
強烈なのは田中だ。何をしても上手くいかず、上官や古参兵だけでなく同期からも疎まれる。そして罰を受け続ける毎日――。そんな役柄を田中が、いかにも人が好く朴訥とした後年の風貌を既に漂わせながら演じているだけに、「こんな素朴な人間がここまで惨めな目に遭うのか」と胸を締め付けられてしまう。特に、炎天下の行軍訓練で大きく遅れをとり、面倒を見てきた梶に見放されてからの怒濤の悲劇はいたたまれなくなる。
この場面、逞しく成長した仲代の風貌が田中の弱々しさと対照的なこともまた、小原の惨めさを際立たせていた。自ら悲劇を体現した前作から、今度は悲劇を伝える媒介者へ。仲代は見た目だけでなく劇中の役割も変化していたのだ。