高齢化の進展とともに、年々、増加の一途を辿る認知症患者数。誰もが他人事ではない問題なだけに、自身や周りの人が認知症になってしまったらと不安に思う人も少なくないだろう。一方で、その治療の実情はあまり詳しく知られていない。

 ここでは、在宅、終末期医療に携わる木村知氏の『大往生の作法 在宅医だからわかった人生最終コーナーの歩き方』(角川新書)の一部を抜粋。日々、認知症患者の診療に当たる著者だからこそわかる治療の実情を紹介する。(全2回の1回目/続きを読む

写真はイメージ ©️moonmoon/イメージマート

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認知症の新薬は特効薬?

 加齢が進めばいずれは肉体的限界が訪れます。さらに肉体だけでなく、認知機能も衰えていくことは避けられません。そこでここでは認知症をめぐる問題を取り上げたいと思います。

 年齢を重ね、還暦も目前にせまってくると、自分が認知症を発症したらどうしようと心配される人も少なくないと思います。

 この心配は当然です。超高齢化によって90歳以上の親を、65歳を超える子が介護するという状況も出てきている昨今、介護される側とする側の双方が認知症の当事者になり得るからです。言いかえれば、「認知症になりたくない」「認知症になったらどうしよう」と認知症を直近の自分ごととして心配する人と、認知症の親を介護している人とが、年代的にオーバーラップしているともいえます。

 しかも、残念ながら現在の医療には、認知症を確実に予防する手段も、発症した認知症を治癒に導く治療法も存在しません。2023年9月25日に厚生労働省によって正式に承認された認知症新薬「レカネマブ」も期待されましたが、治験では18ヶ月の投与で、偽薬と比べて記憶力や判断力などの程度を評価するスコアの悪化が27%抑えられた一方で、薬を使った人の12.6%に脳内の浮腫、17.3%に微小出血という副作用も確認されました。つまり治癒せしめるものではなかったのです。加えて適応は早期で軽度の認知症にかぎられており、かかる費用も1人当たり年間100万円台後半になるのではとの試算もあります。

 じっさいに認知症患者さんを診療している私から見れば、効果も適応も限定的であるばかりか副作用も多く、費用も超高額。とても現場で使える薬ではありません。