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宮藤官九郎の最新作が話題『不適切にもほどがある!』の適切な楽しみ方

SNSでは「正しいか否か」ばかり議論されているが…クドカンが昭和の“無責任男”を令和に呼び出した本当の理由は

SNSでは「正しいか否か」ばかり議論されているが…クドカンが昭和の“無責任男”を令和に呼び出した本当の理由は

ドラマ『不適切にもほどがある!』

2024/03/08
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 金曜ドラマ(TBS系金曜夜10時放送)で放送されている『不適切にもほどがある!』(以下『不適切』)は、昭和の体育教師・小川市郎(阿部サダヲ)が令和の現代にやってきたことで巻き起こる騒動を描いた連続ドラマだ。

『不適切にもほどがある!』TBS公式サイトより

 脚本はクドカンこと宮藤官九郎。プロデューサーは磯山晶。『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)や『俺の家の話』(同)といった数々の名作ドラマを生み出してきた二人が手がけた最新作は、昭和と令和の価値観の違いを面白おかしく描いた意識低い系タイムスリップコメディとなっている。

「無責任男の令和版」のような主人公

 昭和61年(1986年)からやってきた市郎は、コンプライアンスが厳しい令和の時代では許されない暴言を次々と吐き、周囲に人がいてもお構いなしにタバコをスパスパ吸う。

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 人の話をちゃんと聞かずに強引に物事を進めようとする自分勝手な市郎は、若者から見れば老害そのものだが、情に厚く人々が空気を読んで口ごもってしまうことも平気で言えることから、テレビ局の社内カウンセラーに抜擢されてしまう。

 市郎は「無責任シリーズ」で植木等が演じた無責任男の令和版とでもいうような存在で「こういうハチャメチャな男が観たかったんだよ!」と1話を見終えた後、拍手喝采した。

植木等 ©文藝春秋

 何より楽しいのが、毎回の見せ場となっているミュージカルパートで、働き方、ハラスメント、SNS等に対する登場人物の考え方が、歌と踊りによって表現されている。

 ストレートに描くと重苦しいやりとりになってしまう価値観をぶつけ合う場面を、ミュージカルにすることで視聴者の負荷を和らげると同時に、独立したライブパフォーマンスとしても見応えのあるものとなっており、そこだけ抜き出しても見応えがある。

 また、劇中に登場する楽曲は様々なヒット曲のパロディになっており、元ネタがわかると更に楽しめる。そのため当初は、現代社会の問題を歌とお笑いで見せるバラエティ番組を見ているような気持ちだった。

 フリースタイルラップでラッパーたちがMCバトルを繰り広げる様子を放送して人気を博した『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)というテレビ番組が、2015年から2020年にかけて放送されていたが、本作のミュージカルパートは「フリースタイルミュージカル」とでも言うような、即興ミュージカルによるMCバトルだと言える。

 意見をぶつけ合う議論自体を楽しいミュージカルにしてしまう演出は、それ自体が一つのメッセージとなっており、炎上の絶えないSNS上での殺伐とした暴論のぶつけ合いに対する鋭い批評にも見え、「言ってることは正しいのかもしれないけど、せっかく見ている人が大勢いるんだから、もっと楽しくやれよ」とツッコミを入れる、小川市郎の声が聞こえてくるかのようである。

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