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「女ってのはなんで亭主の機嫌損ねることをわざわざ言うんだろうね」

 しかしそんな中でも、荒川良々と怒髪天・増子直純という向かいに住むオヤジ同士の間で、こんな引っかかるやり取りが登場する。

「女ってのはなんで亭主の機嫌損ねることをわざわざ言うんだろうね」

「近頃じゃおめえ、そんなこと言うとジェンダーがなんだっつって叱られるらしいからな」

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「おう、SDGsか」

 もしかするとクドカンにとって、男性に許しを与える立場に収まらず、若者でもない「わきまえない女」「正論を言う女」はもしかして「PTA」で「クレーマー」なのだろうか。

昭和ルックも人気 公式Xより

 クドカンは大人計画でながらく「ウーマンリブ」という舞台シリーズを主宰してきた。その15弾作品「もうがまんできない」が昨年5月に上演された時のコメントも、振り返れば『ふてほど』に通じるものがある。

「日々の暮らしの中で、俺は、私は、本当はこう思ってるけど、そういうこと声に出して言うと今、怒られる時代だからなぁ、そんな風に我慢して飲み込んだ、あんなこと、こんなことを、皆さんに代わって叫ぶ、そんなスカッとするお芝居です」

 サブカルのカリスマ、クドカンも気づけば53歳。団塊ジュニアたちとともに歩む中で、気づいたらファンたちも年をとり、かつては何者でもない若者だった世代が年齢なりの権力を持ち、今では大きな声のマジョリティとなっている。それでいて「一生青春」の男子高校生ノリは維持しているのだ。

 老いを知ることで幼児性と老化が同居する一方で、その中間の「成熟」がすっぽり抜けている状態は、今の日本社会にもよく似ている。それがTBSのホモソノリと一緒になり、「昭和礼賛」「おっさん礼賛」に向かってしまったとすれば残念だ。

主題歌はCreepy Nutsの「二度寝」 ドラマ公式Xより

『ふてほど』にも、たしかに構成の巧みさなどさすがクドカンだと思わせる部分はある。『あまちゃん』を筆頭に地震の取り扱いが上手いことは知られているし、長瀬智也の引退ドラマ『俺の家の話』などで発揮した家族の物語を描くスキルも仲里依紗のエピソードなどに生かされていて、グッとくる場面も多い。

 それだけに、震災やホームレス、障がい、貧困などは繊細に描写していてもジェンダーの問題になると途端に雑になるというクドカンの特性が表に出てしまった残酷な『ふてほど』をどう受け止めていいのか今でも悩んでいる。