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そのときの私は、ほかにも仕事があったし、減額されたら生きていけないという切羽詰まった状況でもなかった。それに、昔からの付き合いを大事にしたいと思ったから快諾した。

ところが、しばらくしてまた呼び出された。やっぱり経営がうまくいっていないから、さらに減額してほしいという話だった。

「いくらですか?」とたずねると、最初のギャランティーの半額を提示された。

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とても了解できるような金額じゃなかった。

「これはさすがに無理です。ほかのクライアントさんとも、こんな金額でお仕事したことなんてありませんから」と私がきっぱり言うと、

「ひろゆきから生活費もらってないの?」
「もしかして2人はうまくいっていないの? 困ったことがあるなら相談してね」

などと、ぜんぜん関係ない話に持っていこうとする。

「彼女だからいいように使えると思っただけ」

「いやいや、それはこの話と関係ないですから」と私が反論すると、その人は私との契約を打ち切ると言ってきた。

そして、捨て台詞として「ひろゆきの彼女だからいいように使えると思っただけだ」とまで言いやがったのだ。

腹が立って悲しくて、家に戻ってからひろゆき君にこのことを話した。

ひろゆき君の話では、資金繰りがうまくいっていないというのは、その人の嘘だった。しかも、その人が、会社のお金を使い込んでいたらしい。

だから、正直に言うと、ひろゆき君が私のためになにか対処してくれるんじゃないかと思った。悪いことをしているのはそいつなのだから。

でも、そんな私の期待をよそに、ひろゆき君はこう言った。

「ひろゆきは、データがないと守ってくれない」

「全部が口約束でしょ? 証拠がなにも残っていないから君を守れない」

いまなら、ひろゆき君の言うことは正論だと思えるのだけれど、そのときは、こんなに傷ついている私に、よくもまあそんなことが言えると思ってブチ切れたのを覚えている。

「この件で僕が口を出すと、役員の彼女が報酬のことで不満を言っている。役員が会社の経営に私情を挟んだと思われる」と、彼は冷静に私を諭してきた。