大谷が史上最高年俸になると確信していた理由
「野球界全員が見守っていて、野球ファン全員も興味津々だよね」
そう語ったのは、ミネソタ・ツインズの野球部門最高責任者のデレク・ファルビーで、ワールドシリーズ終了の1週間後に開催されたGM会議の場だった。
「今後、どんな展開になるのか楽しみだよ。なかなかお目にかかれない状況だからね」
FAが誕生したのは1975年で、以来、この制度はチーム以上に選手に対して多くの利益をもたらすように仕組みがつくられてきた。FAの権利を得る選手は、少なくともメジャーリーグに6年間在籍しなければならず、そんなプレミア感がともなう選手の供給数は、つねに需要より少なく、だからこそ年俸はうなぎのぼりとなる。
1979年に、のちに殿堂入りするノーラン・ライアン投手が、初の年俸100万ドル(約1億4500万円)超えを達成した。同じく、のちに殿堂入りするマイク・シュミット三塁手が、1985年に200万ドル(約2億9000万円)の壁を打ち壊し、そのわずか10年後にセシル・フィルダー一塁手が、年俸900万ドル(約13億円)の屋根をも突き破った。
2023年までに、右腕投手のマックス・シャーザーが最高年俸を受け取っていて、具体的には3年4333万3333ドル(約62億8333万円)となっているが、多くの人は大谷がこの記録を破ると確信していた。理由は単純で、彼が一流投手と一流打者を兼ねているからだ。近代野球史上、こんな前例は1つもない。
「選手と契約できるか、できないかのどちらかしかない」
しかし、事態は8月に複雑化してしまう。大谷に内側側副靱帯の断裂が発生し、二度目のトミー・ジョン手術が必要となったからだ。
こういう選手にいくらの価値があるか決めるのは、それだけでも難しい。さらに、手術という要素が加わり、査定が困難になった。
「私にはまったくわからないな」
GM会議の最中に、匿名を条件に、あるナショナル・リーグの関係者がつぶやいた。
「私自身、彼がケガする前にいくらくらいになるかという個人的見解はあったのだけど、今回のケガでどこに行くか、いくらになるのか、まったくわからなくなってしまった。ただ、彼が3億ドル(約435億円)を手にしようと8億ドル(約1160億円)を手にしようと、私から言えるのは“そりゃそうだろう。もらって当然だ”という感想しかない。どちらにせよ、楽しみだよ」
圧倒的実績と健康問題を超えたところで、大谷は利益を生み出せる男としての異次元の力もある。