「老い」にまつわる問題の中でも、ひときわ難しい「貧困」に正面から切り込んだ本書。出版のきっかけは、若き著者の熱い問題意識だった。ソーシャルワーカーとして目の当たりにした、高齢者の厳しい世代内格差。その現実への憤りをインターネットに率直に書き込んだところ、編集者の目に止まった。インパクトの強い題名は、著者の実体験が反映されているという。

「支援している高齢者の方がよく、自虐的に『俺はどうせ下流だから』みたいな物言いをされるのだそうです。なかなか編集部内で企画が通らず、検討を重ねる中で、そうした現場の声を掬い、造語を作って、くだけたタイトルにしてしまおうと判断しました」(担当編集者の高橋和記さん)

 NHKスペシャル「老人漂流社会 “老後破産”の現実」が話題を集めるなど、後押しする流れもあったが、無名の書き手の本では異例な売れ行きを支えたのは、やはりタイトルだった。

ADVERTISEMENT

「刊行と同時期に起こった、年金の少なさを苦に新幹線で焼身自殺を図った高齢者の事件を、『下流老人』という言葉を使って報じた媒体があったんです。そうしたこともあって、流行語大賞にノミネートされるほど言葉が広がっていきました」

 まさに時代とシンクロして生まれたヒット。刊行直後は当事者の50代、60代が読者の中心だったが、現在は老若男女幅広く読まれているという。問題の重さは日々増すばかりか。

下流老人 一億総老後崩壊の衝撃 (朝日新書)

藤田孝典(著)

朝日新聞出版
2015年6月12日 発売

購入する

2015年6月発売。初版1万1000部。現在14刷20万5000部