ただ高野連が「飛ばないバット」を導入した理由は、中村が指摘するような打撃技術の向上というよりも、直接的な「危険性」が理由だった。
2019年夏の甲子園1回戦、広島商と岡山学芸館の試合で、打球がピッチャーの顔面を直撃し、救急車で運ばれる事態が起きた。大事には至らなかったものの、この出来事がバットの規格変更に向けて高野連の背中を押した。
そもそも、日本のバットは性能が良すぎる。高校野球に限らず小・中学校の野球でも“飛ぶバット”は有名で、飛ぶバットを持ったバッターが打席に入ると、キャッチャーが外野の守備位置を下げるように指示することもあるという。
ボーイズリーグの関係者の話では、世界大会で「そのバットは使ってはいけない」と使用禁止を通達されたこともあるほどだ。
筆者のYouTubeでも解説しているが、それだけの影響力を持っていたバットが使えなくなることで、高校野球にもたくさんの変化が予想される。
名監督が「そういう野球はやめました」と語るスタイルとは
もっとも分かりやすいのは、長打が減って点が入りにくくなるのを補おうとして、送りバントやエンドラン、進塁打を使って少ないチャンスを確実に得点につなげようというチームは多くなるだろう。
しかし、それをやってしまうと、選手が大きく育たなくなる危険がある。
かつて日大三高を強打のチームに育て上げた小倉全由監督は、チームに赴任した当時のことをこんな風に振り返っている。
「右バッターはヒットを打つより進塁打を打つ方が誉められる世界でした。ヒットを狙うよりも、セカンドゴロを打って確実に走者を進めろという野球だったんです。だから左バッターは育つけど、右バッターが育たなかった。でも僕が就任してから、そういう野球はやめました。練習からゆるい球を遠くに飛ばすことをやり始めて、そこからチームは変わったんです」
小倉の取り組みにはいろいろなメッセージが含まれていると思う。
高校野球のような一発勝負の世界では、勝つために少ない点を確実に取ろうと考えてスモールベースボールに行き着く指導者も多い。しかし小倉は、その逆を選択した。そして日大三は強打のチームに生まれ変わったのだ。