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対中融和が独裁体制を生んだ

 しかし「経済」と「国際秩序への統合」を通じて中国が西側諸国のパートナーになるという期待は裏切られました。むしろ軍事力増強と独裁体制の強化につながったのです。

 1980年代から2000年代前半にかけての中国は、鄧小平氏の有名な格言「力を隠し、時を待つ=韜光養晦(とうこうようかい)」に従っていました。いつか米国や西側諸国と対峙するために、軍事力や経済力を静かに蓄えていたのです。西側諸国は、中国を歓迎して受け入れようとしたのに、中国は、軍拡と独裁体制の強化で応じたわけです。

 米国の世界的なハイテク企業ほど、中国の軍事力と警察国家の強化に加担した業界は他にありません。

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 ヒューレット・パッカード社は、中国共産党のオーウェル的監視国家を支える企業への投資で利益を得ました。

 アップル社は、中国共産党の要請を受け、中国国内に広大なデータセンターを建設しました。

 外国の企業や研究機関は、中国市場への参入の条件として、合弁事業の設立や機密技術の引き渡しを要求されるため、知的財産が中国に大量に流出し、さらに人権問題への沈黙も強いられました。

 長年、米国を始めとする西側諸国は、こうした中国共産党の真の意図を見抜けなかったのです。

 中国共産党は、米国の大学、メディア、政府高官を標的にした大規模なキャンペーンを展開しました。左右両派の影響力のある金融界や政界の指導者たちに、「中国の台頭は世界にとって良いことだ」と信じ込ませようとしてきたのです。

 

 関与政策が失敗したことはもはや明らかです。しかし長い間、共和党も民主党も、この厳然たる“真実”を米国国民に伝えてきませんでした。しかし今や中国共産党の“真実”を直視する必要があります。

 まずマルクス・レーニン主義が中国共産党の行動の背後にあることを理解しなければなりません。中国国民の大多数は、もはや共産主義を信じていないのに、中国共産党の指導者たちは、いまだそれにしがみついている。

 彼らはソ連末期に起きたことを注意深く見ていました。そしてペレストロイカの「表現の自由」や「経済改革」が、独裁体制の崩壊につながるのを目の当たりにした。

 彼らにとって、ゴルバチョフやエリツィンは「共産主義を裏切った者」であって、自分たちが「国際共産主義運動」に代わる「中国の特色ある社会主義」で世界を導けるのだと信じています。

 中国共産党は、今日の「米国のライフスタイル」に対する最大の脅威です。この“真実”を最初に語ったのがトランプ前大統領でした。米中関係を方向転換させるだけの“意志”と“勇気”を持ち合わせる者は、なかなか現れなかったのです。

 2016年の大統領選の最大のポイントは、中国の貿易上の不正行為、ダンピングで米国製造業が被った損害、米国の知的財産の略奪について、トランプ氏が“真実”を語ったことにありました。とくに中国のWTO加盟を「史上最大の雇用略奪を可能にした行為」と批判した点が大きかった。

 中国の経済慣行に関するトランプ氏の主張は、外交政策の転換へと引き継がれました。

 近年、中国は周辺国への支配を強めてきましたが、トランプ政権が経済的な強硬措置を取ることで、彼らの世界制覇のシナリオを挫くことに成功したのです。この点については、米国国内でも党派を超えて評価が一致しています。

 トランプ政権は、対中政策の転換と同時に、日本、韓国、台湾との関係強化にも取り組みました。日本も韓国も台湾も、習近平政権の覇権志向に脅威を感じていたので、時宜にかなった戦略だったと言えます。