中国が変わるまで安全ではない
――ニクソン大統領図書館での講演(2020年7月)では、対中政策の転換を訴えるために、ニクソン元大統領の言葉を引いていますね。
ポンペオ 「長い目で見れば中国を永遠に国際社会の外に置いておくことはできない。中国が変わるまで世界は安全ではあり得ない。私たちの目標は変化を起こすことだ」とニクソン氏は述べました。
しかし関与政策は彼が望んだような変化はもたらさず、むしろ独裁体制の強化につながった。後には彼自身も、「フランケンシュタインを生み出してしまった」と後悔していたそうです。
「中国が変わるまで、世界は安全にはならない」という彼の認識自体は正しい。だからこそ、中国共産党には強い姿勢で臨まなければならないのです。
しかし中国共産党と中国国民は区別しなければいけません。カンザス州で中小企業を経営していた2000年代前半に、私は15人足らずの小さな事業所があった上海を何度も訪れ、中国人が大好きになりました。今でも大好きです。
それだけに米国の対中政策が自国民の人権も無視する中国の独裁体制の強化につながったことには忸怩たる思いがあります。
中国共産党の脅威は“内”だけでなく“外”にも及んでいます。彼らはインド太平洋地域を手始めに、中国共産党が主導する新たな世界秩序の構築を目指している。
まず世界の海上貿易の約3分の1が通過する南シナ海を支配しようとしています。
隣国との領土問題は17件も抱え、宇宙空間、サイバー空間、通常兵器、核兵器の各領域でも覇権を目指しています。
遠方の国に対しても「一帯一路」構想で、高速道路、鉄道、パイプラインなどと引き換えに多額の借金を背負わせて多くの小国を支配下に置こうとしています。
とくに懸念されるのは、デジタル分野です。ファーウェイ、ZTE、YMTCといった企業に膨大な補助金を出して、5G、人工知能、ブロックチェーン、半導体、量子コンピューティング技術で覇権を握ろうとしている。仮にファーウェイが5Gを支配すれば、大量の個人データ、商業データ、他国の国家機密データにアクセスできるようになり、中国共産党はそのデータを使って強要、脅迫、詐欺、プロパガンダを行なうでしょう。
「技術革新こそが世界の主戦場となり、技術優位をめぐる競争はかつてないほど熾烈になるだろう」と習近平氏は述べましたが、私はこれを「予言」というより、「強固な意志」の表明と受け取っています。
◆
本記事の全文は「文藝春秋」4月号および、「文藝春秋 電子版」に掲載されています(「米国の視点 金正恩は習近平に支配されている」前米国務長官マイク・ポンペオ氏への12ページにわたるインタビュー)。