エヌビディアが世界1位に
2022年に日本の主要企業8社と日本政府の支援を受けて設立された半導体の国家戦略カンパニー「ラピダス」は現在、北海道千歳市に巨大工場を建設している。ラピダスは半導体王国ニッポンを復活させるための牽引役を担っている。
政府は世界トップに君臨する台湾の半導体メーカー「TSMC」を熊本県へと誘致し、今年中には量産を開始する予定だ。さらに2023年10月には、台湾の半導体大手「PSMC」が宮城県仙台エリアに工場を建設することを発表し、最近は、東北大学発のベンチャー企業と連携するというニュースも飛び込んできた。
こうした事例は全国的に広がりつつある。半導体の技術で「世界から10年遅れ」とまで言われていた日本はこの数年の間に再び「半導体立国」となる挑戦を始めた。そのチャレンジが可能になった最大の理由は、政府の巨額の支援である。その決断は、先ほど述べた二つの「追い風」に促されたものだ。さらに言えば、かつての「半導体立国」を担った技術者が60代、70代を迎え、その技術や経験を継承するならば、今を逃したら後はない、という危機感も政府にはあったはずだ。
勃興しつつある「シリコン列島日本」について詳述する前にその誕生を後押しした二つの「追い風」、すなわち「最新のAI半導体の開発・量産」と「半導体戦争」について説明しておこう。
今年1月「米国半導体工業会(SIA)」は「2023年11月の世界半導体売上高が前年同期比5.3%増を記録した」とアナウンスした。この1年あまりはコロナの影響もあり、トーンダウンしていた半導体業界に急上昇の機運が見えてきたという分析だ。
さらに、SIAは「この成長の背景にはAIなどの新技術が台頭してきたことがある」とも付け加えた。
AIを社会に行き渡らせるには、膨大な計算を処理する能力が広汎かつ大量に求められ、それを支えるのが半導体である。マイクロソフト、グーグル、アマゾン、アップルなどはAI専用半導体の独自開発に入っている。
パソコンに使われるCPU(中央演算処理装置)の他に、GPU(画像処理装置)、FPGA(書き換え可能な集積回路)などの最新半導体を搭載したAIサーバーの出荷台数は、2023年に世界で前年比40%増となり、120万台を超えた。24年も同じく40%増となる見込みで、全てのサーバーのうちAIサーバーが占める割合は12%まで拡大すると予想されている。
生成AIで使用されるGPUのシェアは、米国の半導体メーカー・エヌビディアがほぼ独占している。近年は、半導体の世界チャンピオンの座をインテルとサムスンが交互に奪い合ってきたが、2023年の売上高ではこの2社を抜いて、エヌビディアが世界1位に躍進した。その背景にはAIサーバーへの急激な需要の増加がある。