エスコンフィールドが抱えていた“課題”にJRは何を持ち込んだのか?
齋藤さんは、「ジャストタイミングで、これより早くても遅くてもダメだった」と笑いながら振り返る。そして、JR西日本からの提案は、まさにオープンから数か月経ったエスコンフィールドが求めていたものだった。
具体的に採用されたのは、AIカメラを用いた警備システム、ビーコンによるスタッフの作業精度向上、センサーによる“見える化”だ。ただ、こうした技術サービスの提供そのものは、以前からいくつかの企業から提案を受けていたという。
「ただ、まずは人の手で動かすところからはじめるという我々のスタンスがあった。また、AIカメラなど要素技術だけをご提案頂いても、恥ずかしい話ですがぼくたちだけではどの技術をどう使うのがいちばんマッチしているのかがわからない。
ゼロから試していくだけのリソースも経験もなかったですし。その点、JR西日本さんはどれが良くてどれがダメなのかを実際の現場で検証している。そして、我々のニーズを聞いてくれて、やりたいことに寄り添って最適なツールを提案してくれたんです」(齋藤さん)
これは、JR西日本が技術を開発し、手にした立場であると同時に、それを使うユーザーの立場でもあるからだ。
いくら優れた技術があっても、適切に使わなければ効果は期待できない。 その点、鉄道という巨大システムを日々運営していく中で、鉄道事業者であるJR西日本はいくつもの技術を生み出し、使い、修正し、また使って最適化を進めてきた経験を持つ。
JR西日本のイノベーション本部による技術提供は、単なる技術の販売ではなく、どのようなシーンでどのように活用するかという前後の部分も含めたサービス提供なのだ。
AIカメラは何を見ている?
たとえば、AIカメラによる監視。これが活かされているのは、屋根の開閉だ。冬には雪に覆われる北海道で天然芝グラウンドを持つエスコンフィールドでは、屋根を開けたり閉めたりすることによって芝の育成や保護を行っている。
「250mくらいのレールが2本ありまして、1万トンほどの屋根を24台の台車で動かしているんです。ただ、動かすときにはレールの安全を確認しないといけない。人が近くにいたらキケンですからね。
だから、これまでは雨が降ってきて屋根を閉めようとなったら、警備スタッフがわざわざ15分ほどかけて現場まで行って確認していました。これはスタッフとしては大変な仕事ですし、なんとか効率化できないか、と」(齋藤さん)