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「自分の名前の漢字、間違えてるよ」運転免許更新センターで足を止められ…結婚で改姓した小説家に起きた“まさかの悲劇”

山内マリコ『結婚とわたし』より#2

2024/05/24
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 婚姻届を出した翌日から、仕事で5日も家を空けたのですが、わたしがいなくても夫はちゃんと洗濯してごはんを食べていた様子。妻が何日も家を空けるなんて、人によっては「なんて悪妻だ」と思うかもしれませんが、これも長い目で見れば、夫のためなのである、たぶん!

新姓問題

 ついに重い腰を上げ、名義変更の手続きに行ってきました。出鼻をくじかれてやる気が失せていたものの、免許証はちょうど今年が有効期限で、どっちみち誕生日の前後1ヶ月以内に更新せねばならず。こういうことは早めに済ませるに越したことはないと、渋々出かけました。

©mapo/イメージマート

 まずは区役所で戸籍謄本と住民票を申請します。のっけからあるあるネタで恐縮ですが、窓口で「☆☆さん~」と夫の苗字で呼ばれるのが超違和感。なにしろ34年間ずっと「□□さん」として生きてきたんだから。人の名前を間違うって失礼な行為のなかでもかなり上位にくると思うのですが、それをされたのと近い気持ちになりました。夫の苗字で呼ばれるのは、新妻が幸せを感じるポイントであるとなんとなく刷り込まれてきたものの、ちょっと検索しただけでも、結婚して苗字が変わることについてもやもやした気持ちを抱えている意見が大量にヒットしました。結婚して何年も経つけど慣れないとか、いまだに間違えてしまうとか。名前が変わったことで喪失感をおぼえたという話も当然ありました。

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 わたしは同棲からの結婚だったので生活自体に変化はありませんが、たとえば結婚と同時に実家を出て、仕事も辞め、いろんなものを切り捨てて新生活をはじめた場合、自分の名前まで変わるとなると、アイデンティティなんて簡単にクラッシュしそう。

 というか、そうやって名前を剝奪して一旦ゼロにさせ、嫁ぎ先に染めるという魂胆があったんでしょうな、昔は。

 わたしの場合、仕事上は変化なし(山内は筆名で、本名ではない)。ただその山内でさえ、最初は自分で名乗るのが恥ずかしかったし、つい最近まで人から呼ばれても気づきませんでした。「はじめまして山内です」と言いながら名刺を差し出すとき、いまだにもう一人の自分が「お前はウソをついている!」と指摘してきます。

 本名は麻里子なので、結婚前も結婚後も仕事時も、わたしが「まりこ」であることに違いはないのですが、苗字はバラバラ。ちなみに旧姓のフルネームも筆名も、姓名判断でつけられた名前でした。

 ここで問題が発生。これまでわたしの名前は、運勢のいい字画になるようにと注意深く名づけられてきたのですが、そんなことお構いなしに新たなる苗字、☆☆が降ってきたわけで。ダルマ落としのように旧姓がハンマーで叩きのけられ、☆☆がデカい面してわたしに戴冠されてしまった。