文春オンライン

「自分の名前の漢字、間違えてるよ」運転免許更新センターで足を止められ…結婚で改姓した小説家に起きた“まさかの悲劇”

山内マリコ『結婚とわたし』より#2

2024/05/24
note

『あのこは貴族』『ここは退屈迎えに来て』など、数々の作品を世に送り出してきた作家の山内マリコさん。

 ここでは、山内さんが2013年から2017年まで雑誌 『an・an』に連載していた同棲や結婚に関するエッセイをまとめた『結婚とわたし』(筑摩書房)より一部を抜粋してお届けする。

 「家事分担の不平等」に苦しみながらも、同棲生活を経て34歳で結婚した山内さん。新しく立ちはだかった壁は「改姓」だった……。※〈〉内は文庫化にあたり加筆された、筆者による後日談。(全3回の2回目/最初から読む)

ADVERTISEMENT

©yuruphoto/イメージマート

◆◆◆

悪妻のすゝめ

『そのうち結婚するつもり日記』というタイトルをつけた連載がはじまってから、結婚したらどうするの? とよく質問されました。実は最初から考えてあったのです。

 結婚したら『とりあえず結婚してみました日記』に改めようと。

 とりあえず……、なんていい言葉でしょう。辞書を引くと「将来のことは考慮せず、現在の状態だけを問題とするさま」などと定義され、永遠を前提にした結婚の誓いとは真逆を行きます。「とりあえず」に似合うのは、油性マジックで落書きされた高田純次の顔です。でもそのくらい適当なノリがなかったら、ビビって婚姻届にハンコなんて捺せなかったかも。

「幸福な結婚というのは、いつでも離婚できる状態でありながら、離婚したくない状態である」とは、小説家の大庭みな子によるお言葉。結婚にまつわる名言のなかで、これに勝るものはないかと思います。その気になったらすぐ別れられるけど、別れたくないから一緒にいる。恋人同士なら当たり前のことでも、結婚となると俄然難しくなるのが現実です。子どものために別れられない、というケースももちろんあるけど、いちばん多いのは経済的な理由。最近ニュースでも「女性の貧困」が話題にあがりますが、女性は男性にお金の面で依存せずには生きていけないような社会の仕組みがベースにある以上、一度結婚すると簡単には離婚できないようになっています。これは本当に恐ろしい仕掛けだ。

 先日、地元の友人が、「結婚して専業主婦になりたい。働きたくない。けど家事が好きなわけではない」と言ってました。30過ぎると、結婚の引力はぐぐっと強く作用してくる。そして、もし彼女が念願成就し、結婚して仕事を辞め専業主婦になったら、自分の意志で離婚できる可能性はぐっと低くなります。

 ちなみに大庭みな子の名言は夫側にも有効。夫の場合は身の回りのことを任せきりにする余り、妻なしでは生活できなくなるという依存の危険があります。夫に尽くして身の回りの世話をあれこれ焼けば焼くほど、夫はなにもできなくなっていく。もし妻に先立たれたら、赤子並みに生活能力がない爺さんになってしまう。だから甲斐甲斐しい妻であることは、長い目で見れば実は、夫のためにはならないのかもしれません。