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「自分の名前の漢字、間違えてるよ」運転免許更新センターで足を止められ…結婚で改姓した小説家に起きた“まさかの悲劇”

山内マリコ『結婚とわたし』より#2

2024/05/24
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 ネットの無料姓名判断サイトに新姓を打ち込んだところ、49点というショボい結果に。「画数のラッキー度は高くありません。幸運には恵まれにくいでしょう」と。

 うわ、やる気なくす……。旧姓で占うと80点という高得点で、「生まれながらの幸運度が高い」とのこと。ま、もう無効なんですがね。

 そして姓名判断のほかにも、地味に気になっているのが字面。新姓と麻里子は、どうも字面が良くないんです。夫の姓は☆☆と表記したとおり、珍名というか、やや特殊。ややどころでなく、先日もレジで領収書の宛名を書いてもらう際、何度も聞き間違えられた挙句、微妙に間違って書かれるという事案がさっそく発生したところです。

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 なにより、純粋にわたしの文学的センスが、新しい名前の字面にNOと叫んでいます。

 苗字が☆☆で固定されるなら、漢字は「茉莉子」が合う。

 試しに姓名判断で、☆☆茉莉子を入れてみた結果、なんと86点というまぶしい数字が叩きだされました。読みは同じだけど下の名前の漢字をちょっといじるだけで字面も美しくなり、人生の幸福度もぐんと上がる。いいこと尽くし! できることなら法的に、字面も運勢もいい名前にしたい。

 一瞬、本気で改名しようかと考えたのですが、調べるとこれがなかなか難しそう。

 法的に改名するには、家庭裁判所に「名の変更届」を受理してもらわなくてはいけないのですが、その許可例を見る限り、「字面が悪いから」とか「姓名判断がイマイチだから」という理由は見当たりません。

 そんなわけで渋々ながら、わたしは字面の良くない人として生きていくことに。と、ここでさらなる問題が発生。運転免許更新センターで新姓を提示したところ、チェック係のおじいさんの目が、ギロリと鋭く光ったのです。――つづく。

〈「女性が結婚で苗字が変わることに対して、当たり前というかそれまであまり深く考えたことがなかったので、妻の示した抵抗感は想定外のものでした。もちろん夫婦別姓論の存在は承知しています。でもそれは仕事に支障をきたすとか家の名前を守りたいとか、あくまで限られた状況にあるごく一部の人の話だと思っていました。彼女は仕事にはペンネームを使っているし、お互い長子でも一人っ子でもないし、自分には関係のない話だと考えていました。「じゃあそっちがわたしの苗字になれって言われたらどうよ?」と問われて初めて、思いのほか己のアイデンティティが揺らぐのを感じて事の重大さに気付いたのでした」

 単行本収録『男のいいぶん』より 筆者のパートナーによるコメント〉