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ウェディングドレスは「女性の不自由さを暗示してるとしか思えない…」フェミニストの作家が結婚式をやってみた感想は

山内マリコ『結婚とわたし』より#3

2024/05/24

genre : ライフ, 社会

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 着てみると、コスプレ感覚に一瞬テンションが上がるものの、羞恥心がみるみる噴き出てきます。ドレス姿は肉体的にも精神的にもこの上なく居心地悪いのですが、同時に、人生で一回きり(一体だけ)の3Dフィギュアなんだから、自分史上最高にきれいな状態で写りたいという欲目も。デコルテラインや背中、そしてベアトップにのりがちなワキ肉をなんとかすっきりさせたい。できればアゴのラインもしゅっとさせたい。というわけで、大慌てでダイエットを決意しました。

 一生に一度のウエディングドレスというプレッシャーを己に課すことで、火事場の馬鹿力的に痩せるんじゃないかと期待していたもののそんなわけもなく、気がつけば本番3日前。やはり気持ちだけでは痩せないものなんですね。

 大慌てで歯医者に予約を入れて歯のクリーニングをしてもらったり、せめて肩甲骨はきれいに出したいと、ストレッチの専門店や痩身エステに行ってみたりと、連日あちこちに駆け込むも、目に見えるほどの効果は得られないまま前日を迎え、逆に疲労が溜まるという結果に。そのうえ前日に仕事を終えたのが深夜三時、しかも寝る前に『アラサーちゃん 無修正』4巻をちょっとだけのつもりでめくったところ面白すぎて一気読みしてしまい、こともあろうにほぼ寝ていないという最悪の状態で式当日を迎えました。

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 最初にホテルのウエディングサロンの門を叩いてから1ヶ月半で、あっという間に本番。普通は半年前、もしくは1年くらい前から準備するものだそうですが……。

 結婚式当日の花嫁の朝は早い。持ち物は白いハンカチとストッキング、そしてinゼリー。「in ゼリーのようなものを持参してください」と言われたときからなんとなく予想はついていたのですが、花嫁体験はとにかく過酷でした。2時間かけてメイクと髪をセットしてもらい、ウエストニッパーで体を締め上げられ、パニエで増量されたスカートは自分では操縦できないほど重く、スカートの膨らみで見えない足元は13センチもあるヒール。誰かに支えてもらわないとまともに歩けないのです。

 その時点でわたしのフェミセンサーはビンビンに反応。この身動きのとれなさ、これは結婚における女性の不自由さを暗示しておるとしか思えない。ありとあらゆるものが「なにかを示唆」しているのがこの手の儀式というものなので、新郎は必ず右側を歩くという決まりに関しても、それにはなんの意味が隠されているんだ? と勘ぐってしまいました。