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ウェディングドレスは「女性の不自由さを暗示してるとしか思えない…」フェミニストの作家が結婚式をやってみた感想は

山内マリコ『結婚とわたし』より#3

2024/05/24

genre : ライフ, 社会

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式、後日談

 終わってみればなにもかも楽しかった結婚パーティー。ホテルの個室を借り切ってフレンチのフルコースをいただく会食では、うちの父憲治がナイフとフォークを前に、「どうやって食べればいいかわかんねえよ」的な、田舎のお父さんギャグを披露していました。

 生花が盛られたテーブルセットの横には団らん用のソファスペースがあり、両家の孫たちが大人たちの食事中も大暴れ。クッション投げに二時間丸々費やして、首の骨を折るんじゃないかとヒヤヒヤするほど大胆な角度でソファにダイブしたりしてましたが、怪我もなく誰も泣き出さず和やかに終了。その日はフォトウエディングのプランにあるスイートルームに宿泊、わたしは爆睡しました。なにしろ前日ほとんど寝てなかったので。

 さて、結婚式パートに突入してから鳴りを潜めている夫ですが、ちゃんといます! 

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 出席してます! 「結婚式の主役は花嫁さん」と言われる通り、たしかに準備段階から一貫してわたしが実務をこなし、前に出るばかりで、夫は報告・連絡・相談をたまに受ける管理職のおじさんのような状態に。当日も、ウエディングドレス姿でヨロヨロ歩くわたしを支える杖、みたいな感じでしたが、そんな夫の存在感が俄然増したのが、結婚式の写真が届いた後日のことでした。

 ホテルのロビーやテラスなどで撮った写真がデータで送られてきて、その中からアルバムに入れるものをセレクトするのですが、タキシード姿の夫が、どうも冴えない。髪がちょっとハネてる。顔色がくすんでいる。キレがない(あごのラインとかに)。

 笑顔が中途半端。まるでベッドから引っ張りだされてタキシード着せられたような感じ。一方、朝から二時間かけて作り込まれたわたしの顔は、肉眼ではかなり違和感があったものの、写真になるとちょうどいい盛り具合。よーく見ると目の下がシワッとしてるけど、全体的には「お綺麗」の範疇です。しかしそのせいで、夫のアラが余計目立ってしまった。そう、夫は、夫自身が思っていたより、お老けになられていた!

 プリクラなどで自分の外見を頻繁に確認していた20代の恋人時代から数年が経ち、34歳の現実がどういうものか、夫はこの瞬間、はじめて目の当たりにしたのでした。わたしが数年前に対峙した「人は老ける」という現実に、わりと人生でいちばん大事な写真で直面し、夫は激しく落ち込んでいます。わたしが気を利かせて写真屋さんに「夫のトーンを明るくしてください」と修整をお願いしたら、なんか森進一みたいになって、さらに深く落ち込んでました。夫もメイクすればよかった。

〈最近の結婚式はメンズもメイクしてるのかな?〉

結婚とわたし (ちくま文庫 や-63-1)

結婚とわたし (ちくま文庫 や-63-1)

山内 マリコ

筑摩書房

2024年2月13日 発売

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