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 たしかに、それまで柴咲が演じてきたのは、『GOOD LUCK‼️』の航空機事故で両親を亡くしたせいで飛行機に乗れない緒川歩実や、『オレンジデイズ』の聴力を失ったことでバイオリニストになる夢を絶たれた萩尾沙絵だった。人のためにまっすぐ行動できる内海薫という人物を演じることは、彼女にとって新しい挑戦だったのだろう。

19歳、深作欣二の現場で“覚醒”

 柴咲自身、子どもの頃は「超内向的」で「暗がりを求めるようなタイプ」だったという(知財図鑑 2023年9月15日)。なによりも人前に立つことが苦手で、学校での集団行動にもなじめなかった。他人と関わりたくなかったので、将来は長距離トラックの運転手になりたかったという。

 14歳のとき、池袋でスカウトされたのが芸能界デビューのきっかけ。芸能界入りしたのは「経済的な理由」だった。親の反対を押し切って16歳のときに事務所に入り、98年にTBSの番宣番組『倶楽部6』でデビュー。とはいえ、仕事に前向きだったとはいえず、遅刻の常習犯で2時間半遅れて現場に入ったこともあった。

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 演技には興味も憧れもなかった。ただ仕事としてやるしかなかったからやっていたに過ぎない。転機は19歳のときに出演した『バトル・ロワイアル』。70歳間近だというのにエネルギッシュに演出をする深作欣二監督の姿に衝撃を受けた。

『バトル・ロワイアル』の舞台挨拶に登場した柴咲コウ(右端)。左から山本太郎、前田亜季、深作欣二監督(2000年)

「普段、杖をついて歩かれていた深作欣二監督が、撮影中は走って机を転がして、メガホンで叫んでいた。“この人、じいさんのふりをした青年だ”と思いました(笑)。そして、そんな大人の姿を見て、“物事を知ったような気になって気取っている場合じゃない”、“自分が今できることは何だろう?”と思い知らされたような感覚がありました」(encore 23年12月22日)

「自分たちの中に渦巻いている感情を出せ!」という深作からのメッセージを受け取った柴咲は、自分の殻を割られた感じになったという。出演した作品に愛情を感じるようになったのも『バトル・ロワイアル』から。この頃、柴咲は母を病気で亡くしているが、映画の完成後、父を映画館に連れていっている。入院していた母のそばにいられなかった理由を教えたかったからだ。このことで芸能界入りを強く反対していた父と和解したという(『サワコの朝』13年3月2日)。